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2008-03-21 10:57
文化交流の新しいあり方
西川恵
ジャーナリスト
最近、パリに出張した折に、ルーブル美術館で行われた人形浄瑠璃文楽と、ニューヨークを拠点に活躍するジャズピアニスト、秋吉敏子氏のジャズコンサートを、日本文化会館で鑑賞する機会があった。これらを観ながら、文化交流の新しいあり方について考えさせられた。
文楽の演目は「曽根崎心中」のクライマックス「天神森の段」。人間国宝、吉田簑助が遣うお初と、桐竹勘十郎が遣う徳兵衛が、心中の道行を哀愁タップリに見せ、ルーブル美術館大ホールを埋めた500人の観客の盛大な拍手を浴びた。秋吉敏子氏のジャズコンサートも、日本文化会館大ホールは立すいの余地もない入りで、入りきれなかった人々が会館の受付に群がっていた。
フランスに詳しい人は「静かなジャポニズム(日本趣味)」という。フランス人の日本文化への関心は長い流れのように間断なく続いていて、一時的なブームではないという。フランスの美術館は「日本の企画をすると必ず成功する」という。このジャポニズムの背景には、マンガ、コスプレといったポップカルチャーの影響もある。日本文化に造詣の深かったシラク前大統領政権が昨年の5月まで、10年にわたっていたことも大きかった。またパリの日本文化会館が昨年、開館して10年周年を迎えたが、レベルの高い企画展など、日本文化を総合的、恒常的に紹介する場をもったことも挙げなければならないだろう。
文化交流のあり方も大きく変わった。かつては異国情緒を表層的に鑑賞して楽しんでいたのが、いまは文化と文化が切り結ぶ、そんな対等な関係になっている。自分たちの文化の再生と復活をかけて異国文化と衝突し、火花を散らし、その中から自分たちの文化に新しい生命力を吹き込もうとする。文楽や歌舞伎の演出をオペラに取り入れたり、身体表現の振り付けに能を参考にするのは、いまではふつうのことだ。
「その国の歴史を深く知らない外国人に、その国の古典芸能は理解できない」といった意見が以前はあった。しかし、そうではないと私は思う。固定観念に囚われた私たちより、外国人の方が斬新な観点から、日本の古典芸能を理解していることが時にある。また切り結ぶことで、逆に私たちが自国文化のありように気付かされることもある。いま文化交流はそういう時代にある。
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