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2008-03-11 18:45
姿を変えて残る現代の奴隷制
岩國哲人
衆議院議員
近年、アジア諸国を中心に、経済発展と併行して貧富の格差が進行し、人身売買と強制労働の増加が深刻な問題となってきている。昨年12月7日から4日間、台湾で、民主党も加盟している自由主義インターとアジア自由民主連盟の共催で人権問題会議が開催された。人身売買を中心に、人権問題全般を議論し、国際的な相互理解を深め合って、国際的ネットワークでアジアの女性と子供の人権を守ろうという意義深い大会だったから、是非とも代表を派遣したかったが、国会会期中のとりわけ衆参両院ともに微妙な時だったので、結局私の名前で党の意見を書面で提出し、議論に間接的に参加させていただいた。日本の立場として、北朝鮮による拉致の問題を人権問題としても各国に訴えておきたかったからでもある。
ユニセフや国際労働機関ILOによれば、年間400万人が「人身売買」の犠牲になっており、そのうち18歳未満の子供が120万人と推定され、現代の奴隷制度の中に組み込まれた児童たちは、安い労働力として、臓器売買や売春の対象として、世界各地で取引されている。また、人身売買と並ぶ大きな問題である「強制労働」を強いられる人は全世界で1230万人にも上り、このうち、アジアの人々が950万人を占めている。強制労働も形を変えた奴隷制であることは言うまでもない。
有名店ウォルマートをはじめ、多くの小売店で売られている中国製の飾り付けの製造に、12歳の児童たちが1時間30円の賃金で週100時間以上の強制労働を押し付けられていることをニューヨークの人権団体が発表した。クリスマスを喜ぶアメリカの幸せな子供たちと対照的に、同じ12歳でありながら学校にも行けず強制労働に服している子供たち。あまりにも残酷なニュースだった。今では死語となっているはずの奴隷の数は、英国の学者ベイルズによれば、固く見積もって2700万人、別の活動家の推定では2億人とも言われている。古代のエジプト、ギリシャ、ローマ帝国のすべてが奴隷制を社会組織に組み込んでいた。アメリカ建国の父たちも奴隷制容認に追いやられたのは、奴隷制が当時の北アメリカの多くの人間に多大な利益をもたらしていたからである。1863年、リンカーンの奴隷解放を掲げた南北戦争に北軍が勝利して消滅したはずの奴隷制は、消滅していなかった。消滅しないどころか、グローバリズムという国境の自由化と巨大資本の利益追求のために、姿を変えた奴隷制はしっかりと根付き、増加の傾向にさえある。
近代化には、医療や教育の向上という好ましい影響もあるが、エリート層に富が集中すると、その土地は輸出用換金作物の生産に使用され、貧しい人はますます弱い存在となる。奴隷制そのものや、奴隷的労働力を利用しているのは、いずれも民主国家を標榜している国であり、それらの国を代表する巨大企業群である。しかも、2004年5月から始まったEUの拡大で、この動きに拍車がかかるのではないかとさえ懸念されている。
北朝鮮による拉致問題に関心を深めると同時に、世界の各地で白昼堂々と行われているこのような人身売買という形をとった「児童拉致」が、経済力格差の拡大とともに広がっていることにも、一人でも多くの人が真剣に取り組むべきだ。加えて、資本主義の利益追求重視の経営姿勢はグローバリゼーションの進展とともに益々加速し、効率化、高利益化を急ぐあまりに、人間を資本財(Human Capital)のようにみなす危険がある。人間は機械ではない、人間は人間であるという当然の常識を取り戻し、人間性尊重(Human Value)の社会に変えるためにも教育を重視すべきだと思う。
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