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2008-01-30 18:01
「東アジア共同体」についての私論
中兼和津次
青山学院大学教授
2007年12月14日、青山学院大学で「拡大EUと東アジアの地域統合―比較研究―」と題する国際シンポジウムが開かれ、私も急遽報告者の一人として参加することになった。このシンポジウムの目的は、東方への拡大が進むEUと、なかなか制度的「統合」が進まない東アジアとを比較し、EUの経験から東アジアが何を学ぶかを探ることにあった。私個人はこれまで授業で東アジア共同体について触れることはあっても、公に意見を発表したり、あるいは書いたりしたことはなかった。今回初めて公式に私見を開陳するに当たり従来の議論を参照させて貰ったが、東アジア共同体を熱っぽく説く論者の議論には、ふと次のような論理がほぼ共通して、あるいは明示的に、あるいは暗黙のうちにあることに気づいた。
すなわち、一つには(1)地域統合は事実上の統合(de facto integration )から始まり、制度的統合(institutionalized integration) に進む、(2)東アジアでは貿易や投資、さらには人的交流などの面で事実上の統合は進んでいる、(3)したがって、何らかの統合装置(その性格は論者によってさまざまであるが)という制度(枠)ができれば、さらに一層の事実上の統合が進み、それはひいては「共同体」にまで発展していくだろう、という地域統合進化の論理である。この論理は一見すると正しいように見える。実際、(1)と(2)は余り反論できそうもない。しかし、(3)になるとやや首を傾げたくなる。
もう一つは「開かれた地域主義」という論理である。つまり、東アジア共同体は決してアメリカと対抗しようとしたり、狭い「アジア主義」を振りかざすものではなく、「域外」の国々とも交流を進めるものであり、メンバーシップも「開かれている」という。しかし、開かれた地域主義という言葉自体形容矛盾のような気がする。上述した国際シンポジウムにゲストとして招かれたフランス大使館の人は「開かれたEU」を強調していたが、トルコの加盟でさえ激しい反対があるのに、ましてサブサハラのアフリカ諸国が大挙してEU参加を希望したら、(体制や財政赤字などの加盟条件がクリアされているかどうかは別にして)EU現加盟国は賛成するのだろうか?
さらにもう一つ、体制の異なる中国をどうするかという問題がある。独仏はこれまで何度も戦争をしてきたが欧州統合の中心的役割を果たすようになった、日中にしても過去の戦争は統合の妨げになるはずがない、という議論をよく聞くが、独仏と日中では違いは余りにも大きすぎる。それ以前に、中国は国家統合を求めるような地域統合を拒否していることを知っておく必要があろう。
とはいえ、東アジア共同体について議論したり、そこへの道筋を構想したりすること自体無意味だというわけではない。たとえば、東アジア全体をカバーするFTAが果たして可能かどうか、どうすれば可能か、またそうした経済的地域統合は各国経済にどのような効果をもたらすのか、大いに研究してよい。そのうえ、そうした研究を各国が共同で進めることが、東アジア地域内の相互理解を進めることになるだろう。あるいは、環境や衛生面で東アジア各国が協力し合うような現実的「共同関係」が、域内のアイデンティティをどれだけ高めていくのか、冷静に調べていくことも必要だと思われる。そうした現実的議論の方が、ともすれば情緒的になりやすい東アジア共同体理想論よりもはるかに有用である。
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