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2024-06-09 22:48
変貌する北東アジアの地域情勢と日中関係
青山 瑠妙
早稲田大学教授/GFJ有識者メンバー
5月末にソウルで、4年半ぶりに日中韓サミットが開催され、岸田文雄首相、李強首相、尹錫悦大統領が一堂に会しました。そしてこのサミットで、日中首脳会談も実現でき、日中両国首相は戦略的互恵関係を進展させ、福島第1原発の処理水をめぐる事務レベルのプロセスの加速などについても確認しました。今回の日中韓サミットの意味は非常に大きいと私は思います。2022年において、日本にとり中国は最大の貿易相手国であります。また、中国にとって日本はアメリカ、韓国に次ぐ3番目の貿易相手国となっています。米中両国の緊張関係が高まるなか、貿易投資で非常に親密な日中両国の経済関係が今後どのような方向へ進むのか。これは東アジアの地域の安定にとって極めて重要な問題であり、今回のサミットが注目されている所以でもあります。
今回のサミットで、FTA交渉の再開や人的交流など幅広い協力をうたった共同宣言が発表され、米中対立が続く地域情勢の中でも、東アジアにおいては、経済関係と人的交流の強化を今後も引き続き推進していくという政治的なメッセージが明確に打ち出されました。「未来志向」の実務的な協力の道筋について、三ヵ国の首脳の間で一致していますが、こうした政治的メッセージが打ち出されたこと自体、東アジアの安定した地域情勢にとってとても重要な意味を持っています。もちろん、このサミットだけで、日中両国が抱えているすべての問題が解決できるわけではありません。日本のメディアで広く報道されていますように、共同宣言には、朝鮮半島の非核化を推進していくという文言が盛り込まれておらず、また先端技術分野における三ヵ国の協力ということについても言及がありませんでした。日中両国の関係に限って言えば、このことは両国関係の構造転換の時代に差し掛かっていることを端的に示しているのではないでしょうか。
これまでの日中関係は2つの段階をへて今に至っております。第一段階はいわゆる72年体制の段階であります。日中国交正常化の72年から80年代のまでの日中両国は日中友好をスローガンにし、日中友好のために両国の間で抱えている問題を棚上げにし、良好な政治関係を促進していました。このような良好な関係の下で、日中の経済相互依存関係の基盤が築き上げられました。日中関係の第二段階はいわゆる「政経分離」の段階です。90年代以降、日中両国は歴史問題、台湾問題で対立しながら、安全保障分野の相互不信が高まりつつある中でも、親密な経済関係を持続させてきました。この「政経分離」を基調とする日中関係を支えてきたのは、強靭な経済交流と深い人的交流です。しかし、今の日中関係は新たな段階に差し掛かっているのではないかと思います。米中対立を基調とする国際環境において、日中両国の関係は大きな制約を受けています。こうしたなかで、日中両国の関係は「政冷経冷」の時代に入るのか、新たな「政経分離」の時代に入るのか。今、私たちは時代の分かれ目に差し掛かっているように思います。
国際関係の制約のなかで、もちろんこれまでと同じような「政経分離」の形態をとることは難しいといえます。おそらくこれからの政経分離は安全保障分野や先端技術で対立しつつも、実務的な経済関係を維持するといった形の「政経分離」の流れになるのではないでしょうか。今回の日中韓サミットでは、三か国の首脳から、今後も実務的な経済関係を引き続き推進していくという強力な政治的なメッセージが打ち出されていますが、この方向性をどう具現化させていくのかは、重要な課題となり、具現化に向けて、三か国の政治的努力が求められています。米中対立、ロシアによるウクライナ侵攻、そして中東の紛争が東アジアの地域秩序に大きな影響を与えています。日中韓三か国が抱えている安全保障上の懸念は大きく異なっており、こうした懸念は容易に解消できるような問題ではありません。
それでも共通の安全保障上の懸念に向けて国と国の関係を強靭化させることはできます。2022年を契機に北朝鮮はミサイル発射実験を活発化させるとともに、核実験の動きも見せており、核兵器の保有を憲法に明記しました。日本は「拉致・核・ミサイル」の3点をセットに北朝鮮のミサイルと核開発の動きに強い懸念を示しており、北東アジアのフラッシュポイントとなる北朝鮮の核開発を抑止する仕組みが現実問題として崩壊しつつあるなかで、どうその仕組みを再建していくのかが大きな課題となっています。日中両国がこうした方向を目指して努力することは可能であり、日中両国の関係強化にプラスな働くことにもなります。日中両国の強靭な経済関係を持続させるために、安心して経済関係を推進する政治的な環境づくりが何よりも重要ではないでしょうか。
最後にコロナで中断していた日中両国の人的交流をどう復活させるのか。政府主導で人的交流を促す必要は全くありませんが、これまで形成されてきた流れを大切にしながら、その障害を取り除く実務的な努力が望まれています。また残念ながら、昨年の言論NPOの調査では92.2%の日本人が中国に親近感を抱いていないとの結果が出ましたが、相互イメージを悪化させる障害を取り除くことも必要ではないかと思います。
約20年間の日中友好の時代、20年余りの「政経分離」の時代を経て、日中関係が新たなフェーズに入ろうとしています。これは決して悪いことではないし、恐れる必要もないかと思います。二国関係は様々な関係を経験するものです。ただ、「政冷経冷」の関係を回避し、持続的な経済と人的交流を維持できる二国関係を構築していくためには、安全保障分野での協力を見出し、経済と人的交流の障害を取り除く努力が必要です。
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