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2024-01-15 11:53
勝者なき台湾総統選
岡本 裕明
海外事業経営者
九州より小さな島、台湾の総統選の行方を世界が注目していました。折しもウクライナや中東が戦禍に見舞われる中、将来、アジアの混乱(unrest)が起きるのかを占う意味でどういう結果になろうとも様々なシナリオが描ける状態でした。結果は現与党、民進党の頼清徳副総統が5月からの総統に当選しました。メディアの報じ方は様々ですが、私は結果だけ見る限りにおいて勝者無き総統選および立法委員選挙だったと思います。今回の選挙をどの目線で見るか、切り口はいろいろあると思いますが、最も基本的な切り口は与党、野党、そして中国の3つかと思います。頼氏が勝ったんだから与党の勝ちだろう、と思っては間違いでしょう。大統領制ではないので頼氏と民進党は一体です。その民進党は総選挙で大きく議席を減らし、過半数に全く届かない状態になってしまったのです。
日本の国会に当たる立法委員選挙では定数113に対して民進党51、国民党52,民衆党8,その他2となっています。改選前の議席数が民進党62、国民党38,民衆党5、その他8だったことを考えると与党は議席の2割近い11も落とし、野党国民党が3割以上増となる14増です。これは与党の腐敗問題なども取りざたされましたが、台湾の人々の判断がかなり揺れ動いていることを示しています。頼氏については当選こそしましたが、これまた祭英文氏が当選した時の勢いもありません。得票数558万票で侯友宜氏とは90万票差。祭英文氏が当選した時は2位に300万票以上の差をつけたことを考えると勢いは明らかに劣っています。では野党はどうでしょうか?馬英九元総統が野党統一候補擁立の仲介を画策しましたが、民衆党の党首、柯文哲氏が形勢不利にもかかわらず、侯友宜氏との統一調整をしなかったことから票が割れてしまいます。両者が統一候補を出していれば単純計算で836万票となり、頼氏を圧倒できたにもかかわらず、それがなしえなかったことは悔やまれるのでしょう。第三者的中立的立場から言わせて頂くと野党の戦略ミスがなければ今回の総統選、及び立法委員選挙では大勝できたことになります。
それを横目で見ていた習近平氏はどういう心境でしょうか?国民党が取れば時間をかけた懐柔手段などにより武力衝突なしで上手くまとめる戦略はあったと思います。が、中途半端に頼氏が勝利したことで台湾の顔は敵だけれど、国民は争いごとが好きではない、という一定の落としどころは見えたのかもしれません。それにしてもおそらくは中国共産党は様々な形で見えない選挙介入をしていたはずでそれが失敗だったことは明らか。となればまた責任者を断罪するのでしょうか?習氏は台湾との統一は公約であるゆえに妥協はしないはずで、今後の戦略の練り直しに躍起になると思います。ここまでねじれてしまうと台湾の外交と政策が頼氏の思う通りには行かなくなるのも目にみえており、場合により台湾が大きく二分化するリスクを抱える可能性が出てきてしまいます。つまり、台湾問題をめぐる東アジアの混乱は中国からの外圧という視点から台湾内部の問題へとポジションを変えていくことになるとみています。中国としては台湾内の分断化政策を推し進める算段は当然推し進めるはずです。今回の一連の選挙の落としどころですが、争いごとを望まない台湾の人の深層心理が票に表れたとみています。例えば徴兵制を4か月から1年に伸ばすことを与党は決めていますが、若い人からは当然のようにブーイングが出ており、それが民衆党を支えた若者のチカラでもありました。これは台湾に限らず、韓国でも中国でももちろん、日本でも若者に「軍隊に行くか?」「戦争に行くか?」と問えば大半が「NO!」というのと同じです。
国家を守れ、という保守的思想と「じゃぁ、誰がどうやってやるの?ウクライナのような悲惨なことは見たくない、やりたくない」と誰もが思ってしまったのです。スマホを片手に心地よいライフを送れるならその見返りは多少我慢してもいい、と思う人が出てきたとすれば影響力の格差が明白に表れる時代とも言えるでしょう。ならば、大国の我儘は大国でないと抑え込めないともいえ、最終的にはアメリカの外交政策をどれだけ引き出せるかが勝負どころという気がいたします。台湾の選挙で明白な勝者がいなかったことは現状を大きく変えることが難しいともいえ、案外、台湾の人にとっては好都合な結果だったのかもしれません。
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