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2023-04-03 23:50
習近平主席のウクライナ問題についての考え
美根 慶樹
平和外交研究所代表
中国の習近平主席は3月20日からロシアを訪問。21日プーチン大統領と会談し、共同声明が発表された。ロシアはかねてから中国に武器供与を求めていたが、中国は断ってきた。米国のブリンケン国務長官はさる3月19日、中国がロシアに対して「殺傷力のある」兵器と弾薬の提供を検討しているとの見方を示したが、中国政府はこの主張を強く否定した経緯がある。とはいえ、今回習主席がロシアを訪問したからには武器の供与についてなにがしかの肯定的回答をするのではないかと世界中が懸念していたが、この問題について変化があった兆候はない。共同声明において明確になったのは、中ロ両国がウクライナに対し一方的に「対話」を迫ったことだけである。ウクライナに侵攻したロシア軍の撤退問題については一言も触れなかった。これでは共同声明で言及しなくてもロシアだけを利することになる。
習主席とプーチン大統領の会談結果は、同じ日にウクライナの首都キーウで行われた岸田首相とゼレンスキー大統領の会談で、ロシアの侵攻を「違法で不当でいわれのない侵略」と指摘し、「ロシアは、直ちに敵対行為を停止し、ウクライナ全土から全ての軍および装備を即時かつ無条件に撤退させなければならない」と強調したことと対照的であった。しかし、プーチン氏が傲慢な態度をとり続けることは誰もが予想できたことであり、この点では習主席とプーチン大統領の会談は何ら驚きでなかった。一方、習主席の考えについては不可解な点があった。中国の外務省は今回の首脳会談に先立つ2月24日、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」を発表していた。その時もウクライナへ侵攻した軍については何も触れず、ウクライナのみに停戦と和平交渉の開始を要求していた。
習近平主席とプーチン大統領は約3時間も会談し、各国はかたずをのんで見守っていたが、基本的には中国外務省の和平案から一歩も出なかった。まさか習主席としてはその案をプーチン大統領に伝えに行ったのではあるまい。これが第一の疑問点であった。中国がロシアとウクライナの間を仲介したいという考えであるのははっきりしている。それなら、ウクライナがロシアとの話し合いに応じることはまず無理としても、今後につながる何らかの糸口でも示すべきであった。だが、それもせず、ウクライナに和平交渉に応じるよう一方的に求めただけであった。これが第二の疑問点である。そして推測を重ねることになるが、中国としては、ロシア軍の撤退といっても方法は一つでない。中間案、つまり、ロシアの顔も立てつつウクライナの要求を一定程度満たす方策はありうると考えているのではないか。もちろんそんなことはロシアの侵攻を非難する多数の国は考えもしないことだろうが、中国だけは中間案の内容を当面明確にしない、あいまいな形にしておくのが現実的だと考えていてもおかしくない。そのようなあいまい方式は中国として得意とするところである。習主席がロシアまで行ってプーチン大統領と話し合いをしたのはそのような可能性を探るためだったのではないか。
ゼレンスキー大統領は中国の考えにどう対応するか。軍事侵攻開始から1年になる際の記者会見で、戦争終結に関する中国の提案(外務省の和平案のことと思われる)について協議するため、習近平主席との会談を計画していると述べたが、ロシア軍の撤退に触れない和平案であれば、習氏との会談も実現しないだろう。かりに何らかの形で実現したとしてもあまり突っ込んだ話し合いにはなりえない。ウクライナにとって多数の国民を殺戮したロシア軍を撤退させない和平案などはありえない。米国は3月17日、中国外務省の和平案は「時間稼ぎ作戦」の可能性があると警告した。ブリンケン米国務長官は、「中国やその他の国に支えられてロシアが行う戦術的な動きに、世界はだまされてはならない。ロシアは自分たちに都合の良い条件で、戦争を凍結させようとしている」と指摘し、「ウクライナの領土からロシア軍を排除するという条件を含まない停戦の呼びかけは、事実上、ロシアによる征服の承認支持を意味する」と付け加えた。ロシアの武力侵攻を非難するすべての国の考えを明解に述べている。
中国がロシアとウクライナの間を取り持とうとしている背景も注意しておく必要がある。米中関係と台湾問題であり、ウクライナとはあまりに遠くかけ離れているが、中国は台湾について次期総統選を見据えて平和攻勢を強めようとしている。ウクライナ問題について平和の実現に努力する姿勢は、台湾における中国のイメージ改善にも役立つ。また、ロシアの中国にとっての意味を習氏が見極めようとしている点も見逃せない。中長期的に見れば、ロシアとの友好関係は中国の利益になる面と、必ずしもそうでない面があるはずである。習主席がさる3月1日、ベラルーシのルカシェンコ大統領と北京で会談したのもロシアをトータルに見る一環だったのではないか。
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