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2023-01-18 10:35
2023年:ウクライナ戦争はどうなるか?
舛添 要一
国際政治学者
ウクライナでは戦闘が続いたまま新年を迎えた。2023年、戦争はどうなるのか?プーチン大統領は、大晦日恒例の国民向けテレビ演説で、ウクライナでの特別軍事作戦を始めた2022年を「必要不可欠な難しい決定の年」だったと回顧した。そして、「祖国を守ることは祖先と子孫に対する神聖な義務だ。道徳的、歴史的正義はわれわれの側にある」と述べた。この演説を受けて、ゼレンスキー大統領は、ロシア国民に向けて、「(プーチン大統領)は皆さんの後ろに隠れている。そして皆さんの国と未来を燃やしている。ロシアによるテロについて、誰もあなたたちを許さない。世界の誰もあなたたちを許しはしない。ウクライナは許さない」と反論した。その上で、新年の祈りとして、「国民が帰還し、兵士は家族の元に戻り、捕虜は自宅に戻り、移民はウクライナに戻ってくるように」と語った。
欧米から最新鋭の兵器を供与され、反転攻勢に出ているウクライナは、2014年3月18日にロシアが併合したクリミアを奪還するまで戦闘を続けるという。これに対して、プーチンは、1954年のフルシチョフによるクリミアのウクライナへの割譲が違法であり、その違法性を正して併合したのだと主張する。この両者の主張は真っ向から対立している。昨年3月の停戦交渉では、クリミアの帰属問題は15年間かけて議論する、つまり「棚上げする」ことに両者が合意していた。しかし、その後、ブチャで民間人が虐殺されたことが明るみに出て、停戦交渉は頓挫した。もしこの「棚上げ」路線に戻れれば、停戦は可能だが、今のウクライナはそれを受け入れるはずがない。それにプーチンが演説で指摘したドンバスの状況がある。この地の親露派勢力は、2014年のロシアによるウクライナ併合の後、ロシアの支援の下に4月7日にはドネツク人民共和国、5月11日にはルガンスク人民共和国を樹立した。その結果、ウクライナ政府軍との間で内戦が繰り広げられるようになった。ドンバスにおけるウクライナとロシアの妥協も絶望的である。さらに、プーチンは、9月30日、ドネツク、ルガンスクの東部2州に加えて、南部のザポリージャ、ヘルソンの南部2州も併合を宣言している。ウクライナ軍は4州の一部を奪還したが、この4州をめぐっても、ロシアとウクライナでは妥協の余地はない。
以上を検討しただけでも、停戦の見通しが立たないことがよく分かる。それに加えて、劣勢に立っているとはいえ、ロシアは核大国、資源大国である。しかも、北朝鮮、イランなどから軍事物資の調達が可能であり、また中国、インドなど世界の4分の3の国が対露経済制裁に参加していない。ロシアが直ぐに敗退して、戦争が終わるというシナリオは現実的ではない。調停能力を持つアメリカはウクライナ側、中国はロシア側であり、調停役の大国の不在も大きい。
残念ながら、停戦は容易には実現しないであろう。そして、ウクライナ戦争後の国際秩序の構想も誰にも打ち立てようがない。第二次世界大戦終結前、1941年8月にアメリカとイギリスが「大西洋憲章」を発表し、戦後の国際秩序を模索したのとは大きな違いである。2023年もウクライナで戦争は続き、停戦への道筋は立たないであろう。
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