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2022-11-27 15:25
「大日本帝国系保守」が持つ可能性
日野 智貴
立憲民主党党員
「e-論壇 議論百出」において、倉西雅子先生が「東西の島国と帝国の二重性:大日本帝国系保守の問題」という記事を書かれており、その視点がとても勉強になった。倉西先生は我が国の保守に「古の時代から受け継がれてきた固有の伝統を守ろうとする日本系保守」と「明治維新以降にあって異民族を包摂し、帝国となった時代の保守」(大日本帝国系保守)の二種類が存在するのではないか、と論じられ、イギリスで保守党からインド系のスナク首相が誕生したこととの類似性を指摘する。確かに日本もイギリスも島国故の「同質性」が一つの特徴ではあるが、我が国でも在特会に代表される韓国に否定的な「ネトウヨ」勢力が存在する一方で、彼らに保守派の間でも強い嫌悪感が生じていたことでも判るように、保守派の全てが排外主義者と言う訳ではない。現に『日韓基本条約』を締結した岸信介首相が保守であることに異論はないであろう。保守かどうかには議論もあるものの、立憲民主党の中では旧国民民主党系の保守派とされる小沢一郎元自由党代表は二大政党制を始め「イギリス流議会政治」の確立を導入していたことで知られるが、イギリスをモデルにした彼からして在日韓国人への地方参政権付与に賛成しており、これもイギリス保守党がスナク首相を選んだことと類似した現象かもしれない。
日本人にとって韓国と台湾は、良くも悪くも「特別な存在」である。「好き嫌い」が分かれることはあっても「無視」することはない。それは韓国側も同じなのであろう。倉西先生は旧帝国領出身の異民族が「保守政党の名の下で‘征服者を征服すること’に情熱を傾けているかもしれない」と述べるが、これは家庭連合(旧統一教会)の教祖である文鮮明が日本を「サタンの国」としながらも日本の保守政党に接近した動機の一つである可能性がある。無論倉西先生も述べている通り、家庭連合と組む政治家は「日本統治時代を過酷で残虐な植民地支配として断罪している近隣諸国に日本という国を明け渡そうとしている」と思われても仕方がない。また、日本の保守派は韓国以上に台湾に好意的であるが、安倍政権が尖閣諸島周辺を含む沖縄での台湾漁民の漁業権を認める『日台漁業取り決め』を締結した時の台湾を支配したのは反日色の強い中国国民党政権であり、自民党の中には韓国や台湾の反日勢力に対する一種の「甘さ」があるようにも思われる。ただ、統一教会問題の表面化により今後「大日本帝国系保守」の影響力は一時期に弱まるであろう。
一方で倉西先生の言う「日本系保守」は、私は「日本民族系保守」と言った方が適切であると考えるが、この勢力は現在以前にもまして強くなっている。「日本は単一民族の国である」という国家観がそれだ。言語も歴史も異なるアイヌ民族や琉球民族を独立した民族として認めない風潮が急速に広まっている。この嚆矢は平成21年(西暦2009年、皇暦2669年)に漫画家の小林よしのり氏が著書『ゴーマニズム宣言NEO 2 日本のタブー』でアイヌ民族と琉球民族の存在を否定したことであると思われるが、今や彼の主張に政治家でも賛同する人間がおり、最早一漫画家の主張と言うレベルではなくなってしまっている。戦前の「大日本帝国系保守」は勿論、戦後も保守論壇の間では日本は多民族国家であるという見解が主流であり、小林よしのり氏自身も同書出版までは日本は多民族国家であると記していたから、ここ十数年の間で急速に「日本民族系保守」が急進化してきたといえる。中には、満洲から朝鮮北部を支配した高句麗国王の子孫を祭神とする高麗神社に上皇陛下が参拝したことを非難するような、従来の保守派からは想像もできない“過激派”まで登場した。
しかしながら、イギリス保守党がスナク首相を選んだように、日本の保守派も「日本民族系保守」ではなく「大日本帝国系保守」を選ばなければならない時期が必ず来るであろう。イギリスは大英帝国崩壊後もコモンウェルスを形成しており、イギリス国王は今なおコモンウェルスの首長である。同様に、日本の天皇は今なお対外的には「皇帝(emperor)」である。「皇帝」が元首である以上、日本は現在進行形の「帝国(empire)」なのだ。そもそも日本の初代天皇である神武天皇によるとされる肇国の理念「八紘為宇」とは「世界を一つの家族とする」というものである。この理念と「日本民族単一主義」とは明らかに矛盾する。仮に日本の保守派がネトウヨや一部の自民党議員のように「日本民族単一主義」を貫くならば、最終的には高麗神社を参拝した上皇陛下を批判した人たちのように「天皇批判」までしなければならなくなるが、それは保守派の自己否定であろう。
現実的な問題としても、日本は外国人労働者を多数受け入れており、この数は今後拡大するはずである。無論、私は移民に依存する経済の構築には基本的に反対であるが、仮に外国人労働者を受け入れ続けるならばその待遇改善の一環として日本への帰化要件の緩和も検討する必要があるだろう。そうでなくても、在日朝鮮民族はかつて韓国籍や朝鮮籍(無国籍)の「外国人」が多かったが、今や年々少なくない人数が帰化して日本国籍を取得しており、最早「在日外国人」というよりも「日本国内のエスニックグループ」と言った方が適切な状況だ。このような状況において保守派がすべきことは、「天皇批判」をしてまで単一民族の幻想を守ることでは無く、日本が「多民族国家」であることを認めた上で家庭連合のようなカルト勢力や反日勢力から如何にしてこの国を守り、多民族が「一つの家族」となるような国家を築くかを考えることだろう。そのため「大日本帝国系保守」の考え方は再評価を求められる。それを具体化する際に、イギリス保守党の取り組みは大いに参考になるはずだ。
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