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2007-09-28 09:21
原油高騰を支える米国ファクターの解消に向けた動き
須藤繁
シンクタンク研究員
原油市場には現在、価格の下がり難い構造が定着していると指摘されている。原油余剰生産能力の縮小、一部産油国の政情不安、資源ナショナリズムの再高揚等の供給サイドの要因に加え、米国の石油精製能力不足(米国ファクター)もその一因をなしている。もちろん、原油高騰はこうしたファンダメンタルズの要因のみで決まっているのではなく、昨今、商品ファンドや年金基金の流入の影響も大きい。しかし、こうした非ファンダメンタルズの要素だけで油価の高騰がもたらされるわけでなく、油価高騰はファンダメンタルズの要素に投機資金・金融市場の影響が加わり、その相乗効果でもたらされていると理解すべきである。
ところで、本年上期の油価の高騰・高止まりの状況の中で、IEA(国際エネルギー機関)は、国際石油需給バランスの回復を図るため、OPEC(石油輸出国機構)に対して減産中止を求め、OPECが増産すれば消費国の在庫積み増しが進み、原油価格の上昇は抑制できるとしてきた。これに対し、OPEC関係者は「現在の石油供給は潤沢で、市場に品不足は生じていない」とし、「最近の価格高騰は米国内の精製能力不足による製品価格高騰の影響によるものであり、米国内の精製能力が100%稼働すれば製品価格は低下し、原油価格も連動して下落する」との反論を繰り返した。
こうした基本的な地合いの中で、今後の石油情勢に大きな影響を及ぼす動きが一つ出てきたように思う。米国の石油精製能力の本格的拡張に向けた動きである。具体的には、ロイヤル・ダッチ・シェルとサウジアラムコの合弁企業であるモティヴァ・エンタープライズ(Motiva Enterprises LLC)は、9月21日、70億ドルを投じてポートアーサー製油所(テキサス州、能力日量29万バレル)の精製能力を2倍強に拡大すると発表した。
米国では1976年にマラソン石油がゲリーヴィル製油所(ルイジアナ州、能力日量24.5万バレル)を建設して以来、新規の製油所建設は行われていない。モティヴァのプロジェクトは新規建設ではないが、実現すれば、この30年間の米国石油精製業の流れを変える可能性がある。
米国ではこの30年間、環境基準の強化・地元住民の反対から新規製油所の建設が全く行われず、需要増には既存製油所装置の軽微な改造(デボトルネッキング)により対応、不足には製品輸入で対応する状態となっていた。こうした状況を変えるため、ブッシュ大統領は、製油所建設時の税制優遇等を導入し、大手石油企業による精製能力の拡大に向けたインセンティブを設定していた。本計画の実現が、ひいては国際石油市場の脆弱性解消につながることを期待したい。
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