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2022-03-09 18:20
「プーチン中佐殿、特別軍事作戦をいつ終わらせるのですか」
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
前回、「2022年の中国政治」に関して拙稿を投稿したが、NHK「視点・論点」という番組で川島真東大教授は、中国の外交についても言及し、習近平体制下の中国は「外交面、対外関係では、国連重視外交や新型国際関係、一帯一路など既存の政策を継続しつつ、政治イヤーですので問題の発生を極力防ごうとするでしょう」と語っていた。しかしながら「問題の発生」は、中国の戦略的パートナーであるロシアから起こったのである。北京冬季五輪閉幕式の翌日である2月21日、ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部地域に独立国家を承認し「平和維持軍」派遣を表明した。そして、24日には「SEAD」(敵防空網制圧)に始まるロシア軍の「電撃戦」(今はハイブリッド戦争か)ウクライナ侵攻を開始した。翌25日、習近平国家主席は、プーチン大統領と電話会談を行い、ウクライナ情勢について意見交換した。ウクライナ問題の歴史的経緯やNATOの東方拡大を説明したプーチン大統領は「(欧米諸国は)ロシアの戦略的なボトムラインに挑戦したが、ロシアはウクライナとのハイレベル対話を要望する」と主張した。これに対し、習近平主席は「中国は、ウクライナ問題の道理・道徳(中国語:是非曲直)に基づいて中国の立場を決めている」とし、「ウクライナとの交渉による問題解決というロシアを支持する」と指摘したが、ウクライナ侵攻への言及も支持も無かったのである。この中露首脳会談の行間を読むならば、プーチンから習近平に対し、特別軍事作戦の早期終了(7~10日間)が通報されたのではないかと思われる。なぜなら中国は3月4日から冬季パラリンピックの開幕(~13日)を控えると同時に、例年定例の「両会」(全国政治協商会議・全国人民代表会議)開催も予定されていたからである。しかしながら、ロシア軍のウクライナ侵攻から13日目となった3月9日現在、早期終戦を目指したロシア軍の軍事作戦は「蹉跌」し、今なお継続している。中国でもパラリンピックの競技が始まり、「両会」は開催中である。では、中国の「両会」、中でも中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代、中国語:全人大)ではウクライナ情勢を含め、いかなる議論が行われているのか、以下みていこう。
3月8日付朝日新聞は「中国全人代 侵略反対なぜ示さぬか」と題する社説を掲載し、今回の全人代の注目点の一つとして「目下のロシアのウクライナ侵攻について中国指導部がいかなる態度を示すか」を指摘していた。5日に開幕した全人代冒頭で政府活動報告(討論稿)を説明した李克強総理は、中国の外交について「独立自主の平和的な外交政策を堅持し、平和的発展の道を歩んで新型国際関係の建設や人類運命共同体の構築を推進する」とし「中国は常に世界平和の建設者、グローバルな発展の貢献者、国際秩序の擁護者である」と「一般論」を主張したが、具体的なウクライナ情勢に関する言及は無かった。しかし、例年行われる李克強報告は「討論稿」であり、全国から集まった「人民代表」(一種の代議員)が議論するたたき台にすぎない。11日の全人代最終日に人民代表の意見が集約・反映され、例えばウクライナ情勢に関する言及を加えた政府活動報告が審議・採択にかけられるので注目を要する。
他方、3月7日に記者会見を開いた王毅外交部長は、「ロシア軍は、ウクライナで非軍事施設にまで行動を拡大しているが、中国は紛争解決のために一層の努力を行うのか否か」という英国ロイター通信の質問に回答し、ロシアとウクライナの交渉による問題解決という従来の立場を強調し「当面、国際社会は二大問題に集中して努力を継続すべきである」と主張した。一つは「平和を勧め交渉を促進する」ことであり、「情勢が緊張するほど和平交渉は止めてはならない、対立が大きいほど腰を落ち着けて交渉しなければならない」、「中国は引き続き建設的な役割を発揮し、必要ならば国際社会とともに必要な仲介(中国語:斡旋)を行いたい」と述べた。もう一つは「大規模な人道的な危機の出現を防止する」ことであり、「中国は引き続き人道的な危機克服のために努力し、中国赤十字会が早急にウクライナに対し緊急物資援助を行う」と述べた。こうした王毅外交部長の発言に対し、先の朝日新聞社説は「肩すかし」、「何ともはっきりしない対応」と指摘したが小生も同意する。ロシアの戦略的パートナーである中国は自国単独ではなく、あくまで国際社会、国際機関である国連や赤十字を利用した仲介や援助を行うとしており、敢えて“火中の栗を拾う”気はないと言え、「世界平和の建設者、国際秩序の擁護者」とは一体、どこの国について述べたのであろうか。
旧ソ連国家保安委員会(KGB 現在はロシア連邦保安庁FSB)出身のプーチン大統領は中佐の階級で退官し、今は予備役大佐という。同じ情報担当将校として少佐(3等陸佐)の階級で退官した小生からすると、タイトルどおり「作戦をいつ終わらせるのか」が最大の関心事である。この点、巷間に溢れるプーチン大統領の「狂人」説、「病人」説を明確に否定した作家の佐藤優氏(元外務省主任分析官)が「(プーチンは)24時間、国のために働くことができる国益主義者であり、典型的なケース・オフィサー(工作担当者)」である、「今回の軍事行動は、ロシアと事を構えない融和政権がウクライナで樹立されるまで(長期間)続く」と指摘した(3月6日付デイリー新潮)のには得心がいった。一方、長期化するロシアのウクライナ侵攻をめぐって日本にとっての「教訓事項」や、国防への「気構え」を説く議論は多いがユーラシア大陸西方へ軍事力を集中するロシア軍けん制のために、同大陸東方に位置し、北方領土を有する日本、日米両国の行動について言及する論者が少ないのは何故であろうか。短期的には効果の薄い経済制裁とか、国連や国際社会における批判・非難によってではプーチン体制下のロシアを動かせないことが判明した今、積極的な議論を期待したい。
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