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2007-08-22 17:21
北東アジアが内包する犯罪のグローバル・リスク
西川恵
ジャーナリスト
昨年、北朝鮮の人間と日本の暴力団、在日韓国人の3者が提携した覚せい剤密輸事件が摘発された。今年になってからは、日本の暴力団が中国で「ホログラム加工」という精巧な技術を使って大量の偽造タクシー券を印刷し、日本に持ち込んでいた事件や、北朝鮮の一家4人が日本海を小船で渡ってきた“脱北”があった。これらは相互関連性のない事件だが、示唆するものは大きい。それは北東アジアの冷戦構造が崩壊した後の、新秩序が内包するグローバル・リスクを示しているからだ。
覚せい剤密輸事件は、北朝鮮の貨物船が日本近海まで覚せい剤を運び、洋上で待ち受ける日本の暴力団と在日韓国人が別の船に積み替え日本に持ち込んでいた。北朝鮮は外貨獲得のためにドル偽造や麻薬密輸を国家レベルで行っていると見られ、事件はそうした特殊国家があってのこととの受け止め方が大勢だった。しかし、こう考えた方が正しいのではないだろうか。国家が主導する密輸は摘発された場合に被る国のイメージへの打撃、国際社会での孤立を考えれば、それなりに「管理された密輸」で、一定のブレーキを利かせている。むしろ問題は北朝鮮の国としての統制が緩むか崩壊し、ブレーキが利かなくなったときだ。
偽造タクシー券の事件は、中国のブローカーが仲介となって、日本の暴力団と中国国内の偽造団の仲をとりもっていた。権威主義体制の中国はまだ警察の取締りは厳しいが、自由化と市場経済主義がさらに進展して当局の監視の目が緩めば、犯罪組織の国境を越えた提携はいま以上に進むだろう。北朝鮮一家の“脱北”の方はマフィアの介在はなく、単独の出来事のようだ。ただ小船で日本に渡った先例は北朝鮮の人々の目を日本海に引きつけるはずで、北朝鮮の国の統制が緩んだ時、日本に小船を仕立てるマフィアの難民ビジネスが生まれるだろう。
私は80年代半ばから90年代末にかけ欧州に駐在し、冷戦終結後、欧州各国の犯罪組織が提携を深めるのを見てきた。犯罪のグローバル化は、いま欧州が直面する深刻な問題である。難民ビジネス、売春目的の女性の送り込み、麻薬密輸、マネーロンダリング(資金洗浄)・・・。各国政府の対策は後手に回っている。マフィア捜査に従事するイタリアの警察幹部はインタビューに「各国の緊密な司法協力がないと犯罪のグローバル化には対応できないが、犯罪組織のような効率的で速やかな協力が出来ていない」と皮肉交じりに言った。協力が進んだ欧州でさえこうなのだ。日中韓3国の捜査機関は、犯罪をめぐる情報交換など協力体制をいまから積み上げていく必要がある。北東アジアの冷戦秩序が崩壊した時、花開くのは犯罪組織の違法ビジネスという事態であってはならない。
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