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2021-10-20 19:10
現代中国の盲点八論:「米中対立」の幻相
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
はじめに10月19日付の拙稿の誤りを訂正し、若干の推論を追加しなければならない。まず「1年毎に開かれる(中国共産)党中央委員会総会である6中総会の開催」は、「9月末に開かれた政治局全体会議で時期は11月」に決定したと述べていたが、これは「8月末の政治局全体会議」の誤りであった。そして、拙稿末尾で触れた「問題は11月に開催される6中総会で討議される『決議』稿」について、「党創設以来の100年を総括する新たな『歴史決議』を採択する見通し」(19日付読売新聞)とする邦字紙報道が散見されたが、中国側報道で「決議」稿には「意見聴取稿」、あるいは「討議稿」といった言葉が付与されなかった。また従来、月末に開催される政治局会議が前倒しで開催され、その後に全人代常務委員会会議が始まったことから11月8日に開幕する6中総会まで約3週間、「非公式会議」等で議論継続の時間をとった可能性もある。したがって、小生は敢えて決議の「採択は来年の7中総会までずれ込む可能性もある」としたが、新華社英語版も6中総会の開催決定を伝えるのみで、「決議採択」の報道はなかったのである。さらに、9月末から始まった地方のトップ(党委員会書記)交代は安徽省、山東省(以上30日付決定)黒竜江省、江蘇省、江西省、湖南省、チベット自治区、広西壮族自治区、雲南省(以上10月19日付決定)の9省・自治区に及んでいるが、この大規模人事異動と6中総会の関係等についてはまた稿をあらためて述べたい。
今回の「現代中国の盲点」のテーマは米中関係である。「『米中対決』とか、『米中もし戦わば』という言葉が新聞、雑誌、単行本に氾濫している。・・『米中対決』とさわぐことは、それこそ、自らを米中の谷間に封じ込め、日米安保強化か、破棄かの二者択一に追い込むことになる・・」これは最近の論文の内容ではない。55年前の1966年4月、朝日新聞紙上に「現代の戦略ーその神話と現実」と題し、「ゲームの理論」、「封じ込め政策」とともに「米中対決」と題して掲載された政治学者・永井陽之助氏の評論の内容である(引用は中公叢書『多極世界の構造』中央公論社1973年より)。ほぼ半世紀が経過して米中関係は、再び対立局面に入ったのであろうか。例えば10月7日付の読売新聞社説「中国の対米外交」は「米国との関係改善を模索する中国の動きが最近目立っている」としながら、「中国が軍事力で台湾などを威嚇する姿勢を続けるようでは、状況の改善は望みにくい」と悲観的な見通しを提起している。ここで本年に入ってからの米中関係の動きを概観してみよう。
まず首脳外交では対面外交は実現しておらず、2月の中国の旧正月に合わせた電話会談(バイデンの時候挨拶に対し、習近平の大統領就任祝辞)、9月の「911」(米中枢施設同時多発テロ)発生20年に合わせた電話会談の2回しか行われていない。いずれの会談も中国側は「米中関係と、両国が関心をもつ問題について率直、深く突っ込んで、広範にわたる戦略的な意思疎通と交流を行った」と報道しており、「率直」(中国語「坦誠」)とは首脳間で激しい意見の応酬があったことを表している。次に外相級の協議では楊傑チ党中央外事弁公室主任、王毅外交部長らとサリバン米大統領補佐官、ブリンケン国務長官らとの間で3回の対面協議(アンカレッジ3月、天津7月、チューリヒ10月)や電話会談が行われている。米中二国間関係では、首脳レベル同様「率直」な意見交換が行われる一方、気候変動問題、コロナ対策、世界経済復興及びアフガン問題など両国が関心を持つ問題については協調と協力が模索されている。さらに閣僚級の協議では貿易協議(オンライン形式)が6月から先行しており、10月9日には対米経済交渉担当の劉鶴副総理とタイUSTR代表の間で2020年に発効した第1段階合意における「未解決問題」交渉再開で合意した。気候変動問題ではケリー特使(元米国務長官)の訪中が9月に行われ、中国側は環境保護部長や王毅外交部長、韓正筆頭副総理(気候変動問題担当)が対応した。そして、「軍事力で台湾などを威嚇するような姿勢」が問題になっている軍事分野の協議である。意外かもしれないが8月19日から担当者レベルの交流が行われている。すなわち米国防省のチェイス国防次官補代理(中国担当)と黄雪平党中央軍事委員会国際軍事協力弁公室副主任がオンライン形式で協議を行った。さらに9月末にはこれら両者によって「第16回米中国防部工作会議」が開かれ「突っ込んだ意見交換」が行われたという。9月30日の中国国防部記者会見では「米中両軍関係は多くの困難と挑戦に直面しているが、常に意思疎通は保持している」ことが明らかにされた。こうした事象に先立つ9月10日、中国と英国の間で李作成党中央軍事委員会聯合参謀長とカーター国防参謀長の間でオンライン形式の協議が行われ、交流と協力の推進で合意したことが公表されたことを勘案すると、2020年10月に「我々は攻撃しない。そのようなことになっても事前に通知する」、本年1月に「米国は100%安定しており、すべて大丈夫だ」と米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長が、トランプ前大統領の暴走を危惧して中国の李作成聯合参謀長に対し秘密裏に電話で伝えていたという報道も事実であろうと思えてくる(ただし、中国側は未公表)。こんな一連の流れの中で、今の日本では相変わらず「米中対決」とか「台湾海峡危機」が取り沙汰されているが果たして真実は奈辺にあるのだろうか。
最後にタイトルにある「幻相」とは、決して「幻想」ではない。10月6日の米中高官協議は、両国の意思疎通のための3回目の首脳電話会談年内実施で合意したし、8日の岸田新総理と習近平国家主席の初の電話会談でも来年の日中国交正常化50周年が話題になり、各種方式による意思疎通維持で同意したことから考えて国際情勢は当面、協調局面に向かうのではないか。
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