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2021-08-28 20:38
中国外交は「狡猾」かー最近のアフガニスタン情勢をめぐって
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
8月27日付の読売新聞は国際面に「アフガン外交 中国が攻勢」と題する記事を掲載し、「中国の習近平政権が、アフガニスタン情勢を巡り、外交活動を活発化させている」とし、「イスラム主義勢力タリバンとの接触や関係国との協議を通じてアフガン新政権発足の動きを後押しし、中国国内にイスラム過激主義によるテロが流入する事態を回避する思惑」と述べている。事の発端は8月15日のタリバンによる首都カブール制圧のほぼ半月前、7月28日に天津で王毅外交部長(国務委員)が「タリバン政治委員会責任者」(中国語翻訳)バラダル一行と会見したことである。一行にはタリバンの宗教委員会と宣伝委員会の責任者も同行したという。この会見で王部長は「中国はアフガニスタンの最大の隣国である」とし「米国とNATOが軍撤退を促進しているのは、米国のアフガニスタン政策の失敗を示している」と指摘、さらに「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM 中国語は「東伊運」)は国連安保理が規定した国際テロ組織であり、タリバンにはこうしたテロ組織とは徹底的な一線を引き、有効な打撃を与えることを望む」と「本音」を吐いていた。これに対しバラダルは、訪中の機会を与えてくれた中国に感謝しながら、特定のテロ組織について言及はせず「タリバンは、いかなる勢力でもアフガニスタンの領土を使って中国に危害を与えることは決して許さない」と冷静に主張していた。こうした事例を取り上げ、機を見るに敏な中国外交の先見性や、「911」米中枢同時多発テロ後20年間にわたってアフガニスタンに関与してきた欧米勢力撤退後の「力の空白」を埋めるべく活動する中国の狡猾さを述べるのは容易であろう。しかし、eー論壇の論稿にあったように小生は、急転する情勢に対し「冷静に深層の観察を」望むところである。
カブール陥落後、中国の王毅外交部長が米国のブリンケン国務長官やロシアのラブロフ外相を含むパキスタン、トルコ、英国などの外相と電話会談を相次いで行ったことは事実であり、またトップの習近平国家主席もライシ・イラン新大統領、イラク首脳、プーチン・ロシア大統領と電話会談し、アフガニスタン情勢について意見交換したことも注目される。しかし、「アフガニスタンの国内には多くの矛盾が蓄積され、米軍撤退後には新たな難題が残され、国内にはまだ内戦勃発の危険がある」(8月18日、トルコ外相との会談における王毅外交部長の言葉)のだ。小生は、一部の報道にあった「中国のアフガン問題担当特使がイラン外相と会談した」という点に注目し、“中国は既に特使を置いてアフガン情勢に対応してたのか”と思い、細部調べたところ仰天した。同特使は中国のカタール、ヨルダン、アイルランド各大使を歴任した職業外交官の岳暁勇で任命は本年7月21日、王毅・バラダル会談のちょうど1週間前のことであった。中国を含め、周辺国や関係国の実態はこんなものであろう。他方、風雲急を告げるアフガニスタン情勢を目の当たりにし、インフラ・資源開発を念頭に中国が「一帯一路」戦略の再興を狙っているとか、米軍撤退を奇貨として中国人民解放軍が台湾解放への準備を加速しているという論調が散見されるが、当面の中国の狙いはワハーン回廊等からのテロ勢力浸透の阻止にすぎず、そのためのタリバンの動きの後押しであろう。この点、eー論壇「百家争鳴」欄の中山太郎氏の諸論稿には、いつも大変な啓発を受けていることを明らかにして擱筆したい。
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