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2021-03-13 10:01
(連載3)弾道ミサイルのプースト段階における迎撃
佐藤 有一
軍事評論家
弾道ミサイルを迎撃する前に、発射された弾道ミサイルが日本に到達するか否かを判断する必要があります。弾道ミサイルの飛翔方向とロケットの燃焼が終了した高度を探知することによって、その弾道ミサイルが日本に向けて発射され、日本に到達できる中距離弾道ミサイルと判断された場合にのみ迎撃するべきです。日本に到達しない短距離弾道ミサイルや無誘導のロケット弾などは迎撃しないようにしなければなりません。
発射された弾道ミサイルをブースト段階で探知・迎撃するためには、迎撃用UAV(無人航空機)は弾道ミサイルの発射地点からの距離100~150kmの空域で哨戒飛行する必要があるようです。この距離は、搭載した空対空ミサイルの性能によって決まってきます。弾道ミサイルの発射基地の場所が北朝鮮の内陸部の場合には、この哨戒空域が北朝鮮の領空内になることもあり得ます。
ブースト段階では、発射された弾道ミサイルの発射目的はわかりません。着弾地点の予測もできないので、ある意味で無差別な迎撃にならざるを得ません。このことは発射された弾道ミサイルが試験発射されたのか日本を攻撃する意図で発射されたのかに拘わらず迎撃することになります。また、迎撃によって破壊された弾道ミサイルは北朝鮮国内に落下します。これは北朝鮮からすれば、日本による攻撃と判断されることになるでしょう。これらのことを考えると、ブースト段階における弾道ミサイルの迎撃が尋常な作戦でないことは理解できます。
北朝鮮が自国の領空に侵入している迎撃用UAVを撃墜しようとするのは当然です。それへの対処として北朝鮮国内の防空ミサイル基地と戦闘機の基地の破壊ができるように、事前の情報収集と攻撃用の戦闘機・巡航ミサイルの配備が必要となります。
日本の防衛政策である「専守防衛」の「武力攻撃を受けた時にはじめて防衛力を行使する」立場を順守するならば、平時においてブースト段階の迎撃をすることはできないことになります。ただし武力攻撃を受ける前であっても、北朝鮮による日本に対する弾道ミサイルによる攻撃意図が明確であり、その攻撃準備が実際になされている状況であるならば、ブースト段階の迎撃が敵地に対する攻撃であるとしても「専守防衛」に反しないとする見方もあるようです。しかしながら日本国民の多くが、それを「専守防衛」の範囲内と認識して支持してくれるのかは疑問です。おそらく日本政府はそのような国民意識を考慮して、弾道ミサイルが発射される兆候を認めたとしても、ブースト段階の迎撃をする決断は躊躇するでしょう。
日本に北朝鮮の弾道ミサイルが着弾して被害が発生した状況になれば武力攻撃を受けたことになりますから、続けて発射される弾道ミサイルを防ぐためのブースト段階における迎撃は、「専守防衛」の立場から許されることになります。しかしながら、この時の日本国内の情勢はとんでもない混乱状態になっていることでしょう。そのような状況の中でも遅滞なく迎撃用UAVを所定の哨戒空域に向けて緊急発進させるためには、それを想定した事前の政治的・法制的な準備が欠かせません。自衛隊法による「常時発令状態に移行した破壊措置命令」に「ブースト段階の迎撃命令」を明記して、緊急の場合に政治判断が遅滞してもブースト段階の迎撃をすみやかに遂行できるようにすることです。(おわり)
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