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2021-03-11 09:57
(連載1)弾道ミサイルのブースト段階における迎撃
佐藤 有一
軍事評論家
北朝鮮が実戦配備している中距離弾道ミサイルで、日本が標的になるスカッドERとノドンは最近4年間は発射されていません。これは国連の安全保障理事会による経済制裁、新型コロナウィルス感染対策のための国境封鎖などによる経済活動の停滞と食糧・物資の不足の影響が大きいと言えるのかもしれません。しかし、北朝鮮は軍事優先の国ですから今後の非核化をめぐる外交交渉しだいで、中距離弾道ミサイルを再び発射して日本を威嚇してくる可能性はあると思わなければなりません。日本としては北朝鮮の弾道ミサイルの威嚇発射に惑わされずに、弾道ミサイルの飛翔段階に対応した多層防衛システムを着実に整備していくべきです。
多層防衛においては、弾道ミサイルの飛翔段階のうち宇宙空間を慣性飛行するミッドコース段階ではイージスSM-3ミサイルにより迎撃します。大気圏内に再突入するターミナル段階ではペトリオットPAC-3ミサイルにより迎撃することになります。これらの迎撃システムは模擬弾道ミサイルを使用した迎撃テストが実施されており、成功したことが報道されています。ところが、迎撃する弾道ミサイルの発射場所や発射時刻が事前に知られたうえでのテストであり、現実の北朝鮮による突然の予告なしの弾道ミサイルの発射事態に対して確実に対処できるのか不安が残ります。さらに、北朝鮮は日本を標的とする中距離弾道ミサイルを数百基配備しており、これを連続して発射する飽和攻撃の懸念もあります。このような北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に対して多層防衛をより確実なものにするために、弾道ミサイルの発射直後のブースト段階における迎撃システムを開発・配備することを提言いたします。
ブースト段階は弾道ミサイルが発射され、ロケットの燃焼により加速・上昇して大気圏外に至るまでの段階です。ロケットの高温燃焼により発生する赤外線を検出することにより弾道ミサイルを補足することは比較的容易であり、レーダーによる飛翔方向と距離の正確な探知も可能とされています。この段階では上昇中なので飛翔速度は遅く、迎撃手段の速度性能にもよりますが、追跡・補足することは可能でしょう。それにもかかわらず、ブースト段階の迎撃が実用化されていないのはブースト段階の時間が100~200秒と短いためです。このため、空対空ミサイルなどの迎撃手段を搭載した航空機を弾道ミサイルの発射地点の近くに常時滞空させ、弾道ミサイルが発射されたならば即座にそれを発射して迎撃する必要があるためです。
これまでに米国において、滞空させた航空機からレーザーを弾道ミサイルに照射して迎撃する計画があり、試作・テストまでされたのですが、高出力レーザーの発生に技術的な困難があり実現できていません。最近では同じく米国において、戦闘機から空対空ミサイルで弾道ミサイルを迎撃する構想があり、テストして迎撃に成功したようですが、戦闘機を常時滞空させるための航続時間とその飛行空域の問題があり、実際の配備には至っていません。しかし、その問題を解決する見込みがあれば、空対空ミサイルによる迎撃システムを実現できるとも言えます。
迎撃のために常時滞空するには2機の迎撃用航空機を24時間交代で運用し、それを継続することになります。日本国内の基地からその滞空する飛行空域に移動する時間も必要ですから、迎撃用航空機には30時間程度の航続性能が必要です。自衛隊が保有する航空機のなかで最も航続時間が長い対潜哨戒機でも10時間程度ですし、人が操縦して30時間飛行する運用を継続するのも無理があります。したがって、迎撃用の航空機には長時間の飛行が可能なUAV(無人航空機)を使用することになるでしょう。(つづく)
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