3月になりました。三寒四温の陽気のごとく、日経平均株価が3万円を超えて喜んだところで、先週金曜には1200円もの大幅な下落となり、ヒヤリとしました。しかも、長期金利の上昇に伴い、住宅ローン金利が上昇するなど、生活にも影響が出てくるようです。心配なのは、コロナ終息後に仕事や生活は元に戻るのかという点です。FRBを始めとする各国中央銀行は、完全雇用に近づき、2%のインフレターゲットを達成するまで、金融緩和を続けるとしています。外出制限や巣篭もりで、ライフスタイルが変化したとはいえ、雇用状況はこれからどうなるか?
まず、米国の労働参加率(Labor participation rate)をみてみましょう。労働参加率とは、労働力(目下雇用されている、もしくは就職活動中の人数)を15〜64歳の労働年齢の民間人の数で割った比率です。左グラフの労働参加率1948年からの米国の労働参加率を示しています。労働参加率がもっとも高かったのは、ITバブルがピークに達した2000年直前で、67%を超えています。そして、2020年4月にコロナショックとロックダウンで60.2%まで下げました。これは、1973年1月と同じ水準です。現在は61.4%まで戻っています。ただし、米国の労働市場を長期的に見ると、今のレベルは、ベトナム戦争(1955-75年)が終わり、民間人が労働市場に戻ってきた頃と同じ水準で、そこまで下がっていると見るべきです。2008年のリーマンショック前の水準にも戻っていません。次に、労働人口に対する正規雇用者(Full time employee)の比率をみてみましょう。右グラフは、1968年からの長期の正規雇用者比を示しています。グラフのグレーの影の部分は、景気後退期を示しています。ここでもITバブルのピークの頃に53.95%と、もっとも高く、その後はリーマンショックで大きく落ち込み、やや回復したものの、コロナショックで45%を割り込み、最悪となりました。今は少しリバウンドしましたが、まだ道半ばです。このグラフの長期トレンドから、一つの特徴が見てとれます。景気後退期には当然、失業が増えるのですが、1975年以降ITバブル崩壊前までは景気が好転すると、正規雇用比がその前の状態よりも高くなってきました。が、2000年以降は、元の状態まで戻らず、リーマンショック後も景気が回復しても、正規雇用が増えていません。これは、多くの労働者は非正規雇用で働き続けざるを得ない状況を示していると思います。
アフターコロナに向けて、多くのサービス業では、非接触型の設備投資に動いています。従業員についても固定費を減らすために、正規雇用を減らすと予想されます。そうなると、非正規労働者が今後、どのように家族を支えていかれるのか。インフレ懸念の中、生活苦に陥る人々が増え、貧富の格差が拡大していくことが懸念されます。
完全雇用やインフレターゲット2%といった目標を掲げる中央銀行の政策は、正規雇用を諦めて非正規で働かざるを得ない、原油価格や必需品の値上がりで一層生活が苦しくなる、こうした社会の実相にあっていません。それどころか、かえって貧富の格差を拡大してしまうのではないかと思います。