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2007-07-19 20:56
中東の政治力学を理解するために
山内昌之
東京大学教授
今年は、第3次中東戦争40周年とイラク戦争4周年にあたる。そうした節目の年に立って、現在のイラクやパレスチナの混乱を見ると、まず痛感するのは、アラブ人たちの主体的な責任意識の希薄さにほかならない。なかでもアラファトのように個人独裁にこだわった指導者らの自己過信のつけは大きい。アラファトは、パレスチナが国際ゲームを動かすパワーでもあるかのように錯覚して、クリントン政権最末期にイスラエルと今となると有利な条件で妥協できたタイミングを好んで放擲してしまった。その後のパレスチナは、分離壁の建設、ハマスのハーニヤ首相の指導する内閣とアッバース自治政府議長との対立、ガザと西岸の事実上の分離など、独立国家に向けた自主自尊の実験がことごとく失敗に帰している。
世界のどの地域でも市民の意識水準に見合った指導者しか出てこないのが政治の公理というものだ。この教えは、中東でも真理といわなくてはならない。これは、中東政治の短期的な性格というよりも、イスラーム文明の内部危機に関わる現象といってもよい。イラク問題は、危機の結末というよりも始まりにほかならないのだ。かつてイラクでは抑圧されながら今では勝ち誇っているシーア派共同体と、失われた権力へのノスタルジアをもつスンナ派共同体との複雑な確執こそ、現在のイラク問題の歴史的な核心を占めてる。
実際に、イラクの内戦的状況において、あれこれのテロで名前を残したグループは、300にも上っている。しかも、イラクの現状は、「ひとつの内戦」というよりも「いくつもの内戦の連鎖」と表現したほうが正確であろう。かれらの争いは、イラク国内の復興と再統合にかかわる「内戦」にとどまらず、中東地域内部の宗派や民族の差異とも結びつく中東域内の「内戦」の性格をもっており、アル・カイーダのようなグローバル・テロリズムの関与や「テロとの戦い」を招いた国際秩序の次元における大規模な「内戦」と言えなくもない。それでは、イラク問題はじめパレスチナ問題など中東紛争の複雑な本質は、いずれにあるのだろうか。それを理解する筋道は、複雑にからみあった国民国家の個別性と中東の地域性と国際秩序の超越性の三つの位相を解きほぐしながら、中東で働いている政治力学の構造を丹念に整理しなくてはならないと考えているところだ。
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