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2020-10-23 16:46
E・トッド氏「トランプ再選も」は本当か
中村 仁
元全国紙記者
米大統領選で「民主党のバイデン氏の勝利は動かない」が米国メディア、日本メディア、識者の大半の予想です。これに対して、日本でも著名な仏学者が「トランプ再選の可能性が大いにある」と予言しました。歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏です。ソ連の崩壊、英国のEU(欧州連合)離脱を予言し、さらに2016年の大統領選では「トランプ勝利の可能性」を強調し、見事に的中させてきた人物です。トッド氏は「トランプはウソつき、下品で馬鹿げた人物。私も許容できない」としつつ、「そう非難するだけでは、米国社会の現実を見誤る」(月刊文春11月号)という。「非難するだけでは」がポイントです。われわれは脱税疑惑など、トランプ氏の悪評に着目しますが、それで大統領選の行方を占ってはいけないとの指摘です。米国社会は保護貿易主義への転換、対中強硬姿勢をリーダーに求めている。それが現実だというのです。
それに対して、民主党は人種問題、LGBTなど、イデオロギー的な理想だけを語り、「現実を見ようとしていない」と。「自由貿易(グローバリゼーション)こそが格差を拡大し、社会を分断している」と。トッド氏は以前から、自由貿易主義に懐疑的な学者でした。日本でも、トランプ氏に対しては「人種差別で社会を分断」「国際協調や同盟関係を破壊」と批判が多く、さらに「対中強硬姿勢にはリスク」「コロナ対策の錯誤」などの見方が目立ちます。トッド氏が偏っているとみる「エリート層が好む高級メディアの論調」が日本の論調の下敷きになっています。しかし日本にとってはそうであっても、「米国社会が求めている現実はそれとは違うのかもしれない。大統領に求められるのは、ウソをつかない、信義に反しないことではない」と、ドッド氏は言いたいのでしょう。マキアベリの「君主論」で有名な、「信義を守ることなど気にしなかった君主のほうが偉大な事業を成し遂げられる」「権力者の間では、信義を守れるのは、力によってのみである」を実践しているのでしょうか。海洋に人工島を造成し、軍事的支配の拠点とする中国、先進国の技術・情報を違法な手段で盗む中国と対決するには、乱暴なリーダーの存在が必要悪であるというのが、トランプ支持派の本音かもしれません。米国の世論調査では、バイデンがトランプを約10㌽前後引き離しています。それでもなおかつ、「トランプ再選の可能性はまだ捨てきれない」をいう指摘が絶えません。日本人の感覚、日本人の価値観で大統領選の行方を判断すると間違えるということでしょうか。
「世界的に著名な米国の科学誌がコロナ対策を理由に、大統領選でのトランプ不支持を相次いで表明」「政治とは一定の距離を保ってきた科学誌による現職大統領の非難は異例」だそうです(読売、10/13日)。こういう動きをみると、トランプはやはり敗北するだろうと思えてきます。一方、トッド氏は「米国経済は回復基調、エネルギーも自給、犯罪率は減少、社会として安定状態にある。表層だけみて、米国は破滅に向かっていると見るのは間違い」と。「表層だけみるな」を強調します。
もっともトッド氏の論旨は複雑で「米国の歴史を前に進めるには、民主党側の意識変革が必要。そのためには、バイデン当選よりトランプ再選のほうが望ましい」と。民主党の変革に大きな期待をかけているようです。ともかく、ドット氏は社会構造の奥深い次元まで掘り下げて分析し、歴史の重大な転換点を予言してきた学者です。今度こそ外れるのか、今度も的中するのか。独特の分析力を持つ人だけに興味が沸いてきます。
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