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2007-06-27 16:45
中国の石油石化企業と省エネ技術開発への期待
池尾 愛子
早稲田大学教授
中国のアフリカ進出がこの「政策掲示板」における議論でも注目されている。例えば「議論百出」では須藤繁氏の「アフリカ石油外交とG8のアフリカ開発支援策」(5月31日、6月1日)、「百家争鳴」では甲斐紀武氏の「中国のアフリカ進出と日本の対応」(5月21日)、「百家斉放」では太田正利氏の「アフリカに触手を伸ばす中華帝国」(6月7日)がある。そして、中国がアフリカのもつ石油・鉱物資源の獲得を目的として外交を繰り広げていることと、その余波が懸念されている。
ところで、2007年2月に出版された横井陽一・竹原美佳・寺崎友芳著『躍動する中国石油石化』(化学工業日報社)では、中国の海外資源確保と石油石化産業の中下流発展戦略が密接に結びついていることが、正確な資料と忍耐強い調査により明らかにされた。同書には興味深い事実とデータが盛り沢山で、それは各著者たちの所属組織--中国研究所、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、日本政策投資銀行--がもつ専門情報に支えられている。第1に、中国を代表する国有石油石化企業の中国石油天然気集団公司(CNPC)、中国石油化工集団公司(SINOPEC)、中国海洋石油総公司(CNOOC)の国外進出が1990年代に始まり、2000年以降に活発になる経緯が、詳しくたどられた。彼らが権益原油を高く売れるところで売るというスポット市場の原則にしたがって国際展開する一方で、アフリカ原油だけは例外で、その硫黄分が大慶原油(0.11%、1959年発見・開発)と同じくらい低いことから、全て中国に運ばれると推測されている。
第2に、2010年代には、中国の石油精製業は大型化されるエチレン石化産業と一体化して展開すると予測されている。この新展開は既に始まっていて、欧米多国籍石油石化メジャーや中東などの産油国企業との合弁事業と結びついている。低硫黄原油を処理する製油施設は建設されてきたので、今後は、硫黄分の高い中東原油を処理するための製油施設が増強される。これにより中国は中東原油の輸入・処理能力を向上させることになる。社団法人中国研究所の『中国研究月報』に書評が掲載される予定である。
『躍動する中国石油石化』は「現在起きている変化の状況を事実に即して提供する」ことに主眼においたものの、2010年代になると中国は大量の中東原油の獲得にも乗り出すであろうという予想を言外に伝えている。しかし著者たちにとっては、日本企業に中国でのビジネス・チャンスをつかんでほしいという想いのほうが強い。上記の国有石油石化企業3社の各上場子会社は、2000-01年にニューヨークやロンドン等での新株公開に踏み切っている。上場にあたっては、欧米のコンサルティング会社や外交経験者から助言をうけており、上場子会社は3社とも取締役会を英語で行っている。越境市場で自由に活動し、原油という資源の価格の上昇により高収益を上げる中国上場企業が登場しているのである。
国有民営企業の弱点は、経営方針の転換や当該市場からの撤退を決断しなくてはいけない局面に顕れるものだとしても、当該市場自体が昇竜の勢いをもつときには、攻めの姿勢を堅持することになるのであろう。しかし、自然の恩恵が大きい商品と、商品によって生産される商品の場合では、市場メカニズムによる支配は共通していても、技術革新による新しい製品やサービスの開発、生産・流通組織の編成替えを企業の原動力とする程度が大きく異なる。それゆえ、上記の国有石油石化企業は決して多くの分野で競争力ある企業を育てるためのパイロットケースになるとは思われない。もしこれが経済発展の大きな原動力である技術と技術革新を軽視する姿勢につながっているのであれば、中国と諸外国とのあいだで精神的摩擦が今後も続くことになるのであろう。
かつて経済学者の赤松要と小島清が『世界経済と技術』(商工行政社、1943)で述べたように、技術は科学の申し子であると同時に、「技術の進歩は経済的、社会的動向の圧力によるものであり、これは科学的精神の自覚を促して新なる技術を創造し、あるいはその改良を招来するものである」。現在では、全産業分野にかかわる省エネ技術、環境対策技術の利用や開発はその典型例であり、「技術陣」あるいは「技術チーム」がその鍵を握り、かれらが機能しなくては真の内的発展はありえないといえよう。中国では、民生技術とくに省エネ技術の開発や利用にも、資源獲得並みの人材と資金を注いで、中国社会(ひいては地球社会)に貢献することを考える必要があると思われる。
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