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2020-05-16 01:16
中国の全人代会議をめぐる動向
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
5月15日、中国共産党は中央政治局全体会議を開催し、次週22日に開幕する第13期全国人民代表大会(全人代)第3回会議で発表、審議にかける「政府活動報告」草案について議論した。前日の14日には、中央政治局常務委員会会議も開かれ、収束しつつある「COVID-19」への対応継続の中で全人代会議の準備を急ぐ習近平党総書記を中核とする指導部の「焦り」も伺えた。以下、中国の全人代会議準備作業を中心に注目点を紹介したい。
2 習近平、山西省を視察
中国全土で猖獗を極めた「COVID-19」によって延期を余儀なくされた全人代会議開催を前に、習近平は5月11日から12日まで山西省視察を敢行した。今回の地方視察は、4月以降湖北省武漢市、浙江省、陝西省に続く4回目のものであった。北京からの随行者は従来どおり丁薛祥、劉鶴、何立峰という「側近」メンバーであったが、時間的には武漢市日帰り視察以来の「1泊2日」短期間の視察、帰京となった。これは全人代会議準備の中で諸々の報告・決裁事項を抱えて北京を長くは空けられないという習近平の思惑があったろうが、定例化されてきた中国共産党の中央政治局常務委員会会議は13日水曜日には開かれず、1日遅れの14日開催となった。その理由は何か。
3 地方の動向を重視か
今回の全人代会議は本来なら3月5日に定例開幕する予定であり、そのための準備作業の大半は1月に既に終わっていたことを忘れてはならない。2月17日の拙稿で指摘したように、中国共産党は年初の1月9日、中央政治局常務委員会会議を開いて全人代会議に提出される「政府活動報告」等の各種報告草案を聴取しており、同16日には政治局全体会議が開かれ「政府活動報告」草案が審議されていたからだ。したがって、全人代会議の最大の焦点で、かつ初日に李克強総理が行う政府活動報告は、基本路線は変えずに1月以降の疫病対応等の内容を加筆・変更したものとなるはずで緊急を要するものではない。しかし、地方視察を早々と切り上げた習近平は何を「焦り」待ったのか。5月14日に開かれた中央政治局常務委員会会議の内容が示唆してくれる。習近平は4月29日、5月6日の常務委員会会議同様、あらためて「重点地区」を名指しして一層の対応を求めたのである。すなわち、会議の冒頭で「海外の疾病状況は厳しく、かつ複雑であり、中国の防疫活動は依然として困難で煩雑だ」と厳しい情勢認識を示した習は、①黒龍江省、吉林省は集団感染が発生しており、焦点を絞った防疫活動を強化せよ、②湖北省と武漢市は感染が再燃した社区(コミュニティー)の防疫活動を強化せよ、③北京市は「両会」(全人代会議、同時期に開かれる政治協商会議)の防疫活動を強化せよと、重点である地方指導部に再度「鞭」を激しく入れたのだ。そして、この「強硬策」発動の元になったのが「女傑」孫春蘭副総理の黒竜江省視察(11~13日)であったと思われる。4月27日に湖北省から撤収した党中央指導組を率いた孫副総理(70歳)は、今度は北方の黒竜江省の防疫活動の監督・現地指導を行うと同時に吉林省の活動報告も聴取・指導したという。また、5月4日から「連絡組」(実態は指導組)が派遣されている湖北省武漢市は、全住民約1,100万人を対象に感染の有無を調べるPCR検査実施を12日に決め、期限は全人代開幕前日の21日までとされた。最後に北京市は13日、トップの蔡奇党委員会書記が市内を視察して恒常的な防疫活動実施という「特殊な状況」の下で開催される「両会」をめぐる諸活動に万全を期すように各部門を激励した。このようにみてくると、習近平指導部は「両手で掴む」硬軟両様の対応を継続し、全人代会議開幕という機微な時機には「鞭」を入れる強硬策に重点が置かれていると言えよう。
4 全人代会議の日程等
最近の香港メディアの報道を総合すると、次週5月22日金曜日に開幕する第13期全人代第3回会議は、28日までの1週間開催されるという。2018年第1回会議の16日、19年第2回会議の11日という過去の日程からすると本年は「COVID-19」の影響で短縮された。会期1週間の根拠は、香港特別行政区選出の全人代代表が19日に広東省深圳市でPCR検査受検、陰性確認ならば20日北京へ移動して全人代出席準備、28日の会議終了後香港帰着というスケジュールを明らかにしたことによる。しかし、中国の公式メディアは開幕日のみ明らかにしているだけだ。18日月曜日に全人代常務委員会が開かれ、日程等全人代会議の開催要領案が決まるからである。そして、この時点で会期が公表されるかというと正確ではない。5年に1度開かれる中国共産党全国代表大会(党大会)の開催要領同様、全人代会議も開幕日前日、一連の会議を仕切る主席団(議長団)や秘書長(事務局長)が主宰する「予備会議」(準備会議)が開かれて会期等が正式に決まるためだ。本年は21日木曜日が該当する。また、近年は政府活動報告や経済・財政報告等各種報告草案は全て書面公開されており、その討議・審議は簡素化されて恐らくVTC(ビデオTV会議)形式が主体となる可能性が高い。これは結果的に、言葉の真の意味で本年の全人代は「ゴムスタンプ会議」(報告等諸議案を承認するだけの会合)となるかもしれない。経済成長目標や国防費、軍を含めた防疫活動の評価、対米関係を主体とする外交政策の方向性など全人代会議における注目点は、実際の会議の内容を考察しながら述べていきたい。
5 おわりに
5月11日のBS日テレ「深層NEWS」で中国問題が取り上げられ、同番組に出演した興梠一郎神田外語大教授は「習近平国家主席は(中国共産)党内で立場が厳しい」と指摘したのに対し、小谷哲男明海大教授は「米国では習近平体制はまだ盤石との見方が強い」と述べたという。その正否を明らかにする契機が、今回の全人代会議をめぐる動向である。中国の成句に「防微杜漸」(間違いや悪事を小さいうちに絶つ)という言葉がある。何事も問題点を見つけたら、事が大きくならないうちに未然に防げという意味の警句であるが、2017年以降の第2期習近平体制の基本方針ではないかと考える。しかし、現実は厳しい。本年も「COVID-19」への初期的対応をはじめとして蹉跌をきたしているからだ。今後も、国内外にある激しい習近平体制への好悪に関わらず、その実態を正確、かつ冷静に観察していく必要があろう。
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