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2020-05-01 21:03
最近の習近平指導部への試論九論
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
5月1日から5日まで中国は、「五一」(労働節 メーデー)休暇に入った。1月末からの「春節」(旧正月)休暇が「COVID-19」によって台無しになった中国人は、今回の休暇中に延べ1億人以上が観光や里帰りで国内を移動するという。まだ疾病が完全に収まっておらず感染「再燃」の恐れがある現状で、中国は一体何を考えてるのかという懸念が高まる可能性がある。しかし、休暇突入前に習近平指導部は対策を打ち出しており、以下その注目点を紹介したい。
2 中国共産党の重要会議開催
5月22日からの第13期全人代第3回会議開催を内外に明らかにした4月29日水曜日、中国共産党は「最高意思決定機関」である中央政治局常務委員会会議を開催した。同会議は習近平総書記の陝西省視察(20~23日)を挟んで、15日水曜日以来2週間ぶりの定例開催であった。会議を主宰した習総書記は「全国の防疫活動が得た重大で戦略的な成果は確かに生易しいことではなかった」としながら、「海外で疾病が暴発・増加する情勢は依然として続いてることによって国外からの疾病流入防止の圧力は強く、国内の疾病再燃防止という複雑性も増えている」と厳しい認識を示し「防疫活動という弦(弓の弦)は常に張っておかなければならず、決してこれまでの成果が無駄にならないようにせよ」と指摘し、各地域・部門に対し恒常的な防疫活動を訴えた。ここまでの主張なら従来の対応であろう。しかし、続く習の主張は異例で、恐らく地方指導部の心胆を寒からしめたと思われる。細部みてみよう。
3 「重点地区」黒竜江省、湖北省、北京市を名指し
前記発言に続いて習近平党総書記は「重点地域、重点コロニー(中国語:群体)の防疫活動をしっかりと行わなければならない」と述べ、「黒龍江省は抜け穴を徹底的に調べ欠点を補い、特に病院の院内感染への対処を強化し、全力で現場に行って医療救済に従事せよ」と厳命した。さらに、習総書記は「湖北省と武漢市は引き続きコミュニティー(社区)の防疫活動を強化し、応急対処案を整備して治癒患者への関心と援助を強化せよ」とし、「北京市は引き続き重点(地区)の防疫任務を完遂せよ」と強調した。そして習近平は「湖北省、特に武漢市の人民の貢献、犠牲は大きく、経済社会や民生が直面する困難も大きい」とし、「党中央は、湖北省支援のための包括的な政策を研究・確定し、財政税収、金融貸付、投資、対外貿易などの分野で具体的な措置を出した」のである。4月に入って省都ハルビン市で集団感染が発症して党員幹部が処分された黒龍江省には「鞭」を振るい、76日間の封鎖状態に耐えて防疫活動で一定の成果を出した湖北省には「飴」が出されるという硬軟両様の政策が提起されたのだ。他方、「五一」休暇前の4月30日に緊急対応レベルを下げた首都北京市は、今後5月22日開幕の全人代会議開催への環境整備の成果次第の対応ということであろう。そして、これら3省市への対策明示は今後、他の省市、自治区への「見せしめ」効果になっていくはずである。
4 他の会議開催動向等
4月30日、中国の防疫活動の「司令塔」である党中央疫情対応工作指導小組(組長:李克強総理)は第28回会議を開いた。前回第27回会議(22日)以来8日ぶりの開催であり、「五一」休暇間の交通、宿泊施設、観光地域の防疫活動徹底を訴える内容であったが、基本方針は前日の党政治局常務委員会で示されたものであり新味は無かった。他方、28日に開催された党中央・国家機関党建設・規律検査工作会議は、党内・政府内に勤務する幹部職員に「ネジクギ精神」(一本のネジクギ、歯車として模範となり党組織を支える心構え)で職務を遂行せよと訴えた。同会議の主宰者は習近平に付き従って日常業務の差配を行う「秘書長」丁薛祥党中央弁公庁主任、参会して所属組織の経験を披露したのは陳一新党中央政法委員会秘書長(前中央指導組副組長、元武漢市党委員会書記)だったことから、「習近平一派」の存在感をショーアップするものとなった。そして、次にみるように人事上も「習近平一派」は増員され、習近平指導部の基盤強化も図られた。
5 新しい司法部長の任命
4月24日の拙稿で指摘したように、党中央政法委員会が主管する「平安中国」建設プロジェクト(21日始動)に関与するメンバーから現職の司法部長が落ちて唐一軍遼寧省長(当時)の名前が現れていた。26日に再開された司法部HPを確認すると、フ(にんべんに専)政華部長、袁曙宏副部長(党組書記)の存在が確認されていた。しかし、3日後の29日に閉幕した全人代常務委員会は全人代会議の日程を決定するとともに、司法部のフ部長更迭と唐一軍の部長就任を明らかにした。唐新部長の経歴をみると、1977年の浙江省着任以来、2017年に遼寧省へ異動するまで40年間という長期にわたり現地一筋で勤務し、習近平の同党員会書記就任時(2003年3月)に秘書長として仕えたベテランの地方幹部である。したがって、唐部長に中央勤務の経験は皆無で法律の専門家でもなく、司法部の具体的な業務は法学博士の資格を有する袁副部長任せである。したがって、今回の措置は、あくまで「習近平一派」の増員を目指した人事異動であり、不安定な社会治安を主管する党中央政法委員会の勢力伸長の一環なのであろう。
6 おわりに
4月27日、中国の著名な人権派弁護士で、約5年間の刑期を終えて山東省の刑務所から出所した王全璋が北京市の自宅に戻り家族との再会を果たしたという。これは、今回の司法部長交代による中国の治安当局の融和的な態度への転換かとみていたが甘い見方であった。5月1日のAFP=時事通信の報道によれば、湖南省の裁判所は4月30日、中国共産党機関紙「人民日報」等の記者であった陳傑人に有罪判決を下した。罪状は騒乱挑発罪、中国の政治体制を批判したことが原因であろう。重大な政治イベントが目白押しの習近平指導部はあくまで「両手で掴む」、硬軟両様の政策堅持であり、どちらかに偏る「片手落ち」の政策はないことを銘記しなければなるまい。
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