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2020-04-21 20:19
最近の習近平指導部への試論六論
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
4月16日の拙稿で言及した、中国共産党の「最高意思決定機関」である中央政治局常務委員会の会議は15日水曜日やはり開催されており、その議論に基づいて17日、政治局全体会議が開かれた。同全体会議は3月27日以来の開催であり、従来の防疫活動の一層の徹底と同時に、新たな経済振興策が打ち出された。しかし、こうした事象の前後に異例事態も発生しており、その概要を以下紹介したい。
2 「経済安全」に翳りか
4月17日、中国の国家統計局は、本年第1四半期(1~3月)の国内総生産(GDP)が四半期ベースで初のマイナス成長(-6.8%)となったことを公表した。産業別にみると、第一次産業-3.2%、第二次産業-9.6%、第三次産業-5.2%であり、特に工業、製造業の落ち込みが明らかになった。こうした経済情勢の悪化を受けて開催された同日の政治局全体会議も「本年第1四半期は極めて尋常でなく、突如襲来した新型肺炎は我が国の経済社会の発展に対し未曾有のショックをもたらした」と厳しい認識を示した。そして同会議は「住民の就業を保ち、基本的な民生を保ち、主体としての市場を保ち、食糧・エネルギーの安全を保ち、産業チェーン・サプライチェーンの安定を保ち、末端層の運行を保つことによって内需拡大戦略を実施しなければならない」として「六保」対策を打ち出した。そのために政府は、一層のマクロ政策、具体的には財政赤字率の向上、防疫特別国債の発行、地方政府専用債権の増加といった積極的な財政政策、及び貸付基準や利子の低下、再貸付等の手段を使った安定的な貨幣政策を推進せよと主張したことから、習近平指導部は今後、経済発展へ重点を移していく可能性が高い。しかし、こうした政策遂行を取り巻く政治情勢には不透明感もある。細部みていこう。
3 「社会安全」等で発覚した問題点
先ず4月16日の拙稿で指摘した「社会安全保障」国内治安を主管する公安部には、やはり問題点が存在していた。19日晩、公安部の孫力軍副部長(兼党委員会委員)が重大な規律違反と違法行為の嫌疑から拘束されて捜査対象となった。オーストラリアへの留学経験がある孫副部長は中央指導組(組長:孫春蘭副総理)の一員として湖北省武漢市へ派遣されており、また最近まで公安部の香港マカオ台湾事務弁公室主任を務めていたとされるが嫌疑の内容は明らかでない。関連事象をしいて挙げれば、11~13日の間中央指導組の動静が全く確認されなかったことがあり、同組員の孫副部長への対応がとられていたのであろうか。
次に4月17日、湖北省武漢市は、従来公表してきた新型肺炎の感染者数と死者数の修正を発表した。数値は感染者数325人増、死者数1,290人増と決して小さくないものである。10日前の8日には武漢市の封鎖が解除されて、その成果を内外に誇示した中国であるが面子を潰された形となった。修正の理由は「病院に収容できず自宅で死亡したケースや、医療現場が混乱する中での報告漏れ、激増した医療機構間の調整不足、死亡者登記の不具合」とされたが、担当部門の職務怠慢であると言わざるをえない。2月25日の拙稿で既に指摘したが、中央指導組の陳一新副組長(前武漢市党委員会書記)が「疾病に関する統計データは科学的に分類し、正確に統計しなければならない」と厳命しており、今後再び湖北省指導部(特に湖北省長、武漢市長)の調整が行われる可能性もある。
最後はまた地方の動向である。4月15日、ロシアと国境を接する黒竜江省は、省都ハルビン市の新型肺炎対策の不手際による集団感染発症について市長ら指導部を批判し、是正策を要求した。17日にはハルビン市の副市長、衛生健康委員会主任(15日任命されたばかり)ハルビン医科大学副校長ら18人の党員幹部に対し、重大な規律違反を認め問責処分を下した。そして、翌18日には黒竜江省から指導組がハルビン市に派遣され、厳格な指導・監督活動が始まったことから、中国の他の地方指導部に「一罰百戒」の効果となったであろう。
4 「政治安全」をめぐる動向
4月20日、2月上旬以降、月曜日と木曜日の週2回開催と「定例化」されてきた防疫活動の「司令塔」中央疫情対応工作指導小組(組長:李克強)が開催されなかった。前週16日木曜日まで26回の会議を重ねてきたのだが異例の事態であると言えよう。李克強組長以下メンバーに何か異変があったのかは明らかでない。例えば丁薛祥党中央弁公庁主任は後述する習近平の地方視察に同行したのであろう。また趙克志公安部長は身内の不祥事対応に忙殺されている可能性が高い。あるいは李克強自身が、1月末の湖北省武漢市訪問以来の地方視察に出たのであろうか。
他方、16日の拙稿の最後でふれた全人代開催動向である。一部の香港報道では具体的に5月23日開幕とさえ伝えているが、その根拠は17日に開催された全人代常務委員会の委員長会議の内容である。確かに4月26日から29日までの常務委員会会議開催は決定され、議案も公開された。その中には「生物安全法」草案や「動物防疫法」改正案の審議等があるが、全人代会議の日程に関する議案は確認できなかった。26日からの常務委員会会議における「緊急動議」でもない限り、全人代会議の具体的な日程は決まらないであろう。
5 おわりに
4月20日、いわゆる「COVID-19」への対応を本格化せる習近平の重要指示(1月20日)が発出されて3か月が経過した。その結節日に習近平は首都北京から地方視察に出た。3月末の浙江省視察以来のことであるが、今回の対象地域は中国西北部の陝西省である。視察活動は継続されており、その中身については後日稿を改めて述べたい。
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