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2020-03-12 02:26
COVID-19に関する中国軍の対応再論
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
3月10日、中国の習近平中国共産党総書記・中央軍事委員会主席(兼国家主席)は、湖北省武漢市を初めて視察した。視察には中央疫情対応工作指導小組の王コ寧副組長(政治局常務委員兼書記処書記)、丁薛祥組員(政治局委員兼弁公庁主任)とともに、中央軍事委員会の張又侠副主席(兼政治局委員)が随行した。軍要人の動向が確認されたのは2日の北京市視察以来のことであり、習主席直々の「前線」たる現地訪問・現場指導の中身は注目されるので、以下紹介したい。
2 臨時病院「火神山医院」の視察
10日午前中、習近平一行は飛行機で湖北省武漢市に入り、現地の孫春蘭中央指導組組長(政治局委員兼副総理)、応勇湖北省党員会書記、王忠林武漢市党委員会書記とともに、人民解放軍が主管する火神山医院を視察した。同医院ではモニターを通じて医療関係者を激励するとともに、入院患者にも声を掛けた。そして、視察の最後に習近平は「現在、疾病の蔓延・拡散の勢いは基本的に抑制され、情勢は徐々に好転している」と指摘する一方、「防疫活動がカギとなる段階では意気は上げても漏らしてはならない。張り切るなら歯を食いしばって徹底的にやり、しっかりと責任を持って守り、これまでの成果が無駄にならないようにしなければならない」と強調して現場に発破を掛けることを忘れなかった。
3 武漢市「社区」(コミュニティ)の視察
火神山医院の視察に続き、習近平一行は武漢市内の東湖新城社区を訪れ、同地域の衛生防疫、住民サービス、生活保障等の状況を視察した。地域の代表と懇談した習近平は「防疫活動には2つの陣地がある。一つは医療活動にあたる医院という陣地であり、もう一つは社区という防御陣地である。防疫活動を万全に行うカギは社区に頼ることである」と強調した。さらに習は「防疫という人民戦争に勝利するためには、人民に密接に頼らなければならない。深く細部に至る人民大衆活動を行うには、大衆を動かして人民防衛ラインを構築しなければならない」と指摘し、一部の共産党幹部や軍人に頼るだけでなく、現場の人民大衆をも防疫活動に巻き込む姿勢を明らかにした。
4 現地視察の総括会議開催
一連の現地視察を終えた習近平は対策会議を開催し、中央指導組と湖北省指導部の状況報告を聴取して総括演説を行った。その基調は、従来からの「防疫活動という人民戦、総力戦、阻止戦を開始した」という新たな「三戦」への対応であったが、興味深い一節もあった。それは、習近平が「民生の安定とは人心と社会の安定である。湖北省や武漢市など感染が重大な場所の人民大衆は、こんなに長く隔離されて一部感情を吐き出すこともあるが理解し、これは大目に見て寛容な態度をとらなければならない」と強調したということである。これは習近平視察の5日前、武漢市内を廻っていた中央指導組の孫春蘭組長一行に対し「(施策は)全てウソだ」と叫ぶ住民の罵声が響く映像がネット上に流れたのを意識した発言であろう。共産党幹部や軍人の腐敗汚職・職務怠慢等には厳格な対応をとる習近平が、「深く細部に至る人民大衆活動」については「軟化」したのであろうか、今後の対応を見ていく必要がある。
5 他の軍人動向
3月3日の拙稿で触れられなかった軍要人動向として、中央軍事委員会委員の魏鳳和国防部長が同日、米国のエスパー国防長官と電話会談を行った。同会談では米中両軍の対話と協議を行うことが確認され、米側は「新型コロナウイルスの拡大防止と制御を目的に中国に支援を申し出た」(4日のロイター通信報道)というが中国側の反応はなかった。
最後に、今回の習近平の視察活動には「軍の関連部門の責任者が随行した」とあるが、報道写真などからは確認出来なかった。恐らく医療・兵站部門を主管する後勤保障部や現地の中部戦区の軍人であろう。
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