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2020-02-07 02:50
新型肺炎に関する中国の対応再論
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
旧正月休暇明けの2020年2月3日、中国共産党中央政治局常務委員会は新型肺炎に関する中国の対応について対策会議を開いた。これは旧正月に入った1月25日以来の会議であり、習近平ら中央指導部の最高意思決定機関が開いた会議と言える。日本の一部メディアは、同会議で新型肺炎に関する中国の初期的対応で指導部が誤りを認めたと報じたが、中国のネット等で内容を細部確かめると事実関係は異なると感じた。本論は、2月2日に掲載された拙稿に続く再論である。
2 今回の新型肺炎対策会議の内容
今回の会議は習近平党総書記が主宰し、基調演説を行っている。その中身は1月25日の会議で設置された「中央疫情対応工作指導小組」(組長:李克強総理 メンバー等は後述)の活動報告を聴取し、中央と地方が協力して新型肺炎に関する対応を強化し、一致団結して新型肺炎の蔓延「阻止の戦い」に勝利しなけばならないという内容であった。習総書記は、その闘いの中で「欠点を探して不足を補い各種防疫活動をしっかりと行え」と担当者に発破をかけたが、誤りを認めた部分は見当たらなかった。関連箇所を強いて探せば、最後の方で同会議が「今回の対応の中で露見した欠点と不足に対し、国家全体の応急管理システムを健全化して対処能力を向上させなければならない」と指摘したという部分はあるが、これは「遺憾」表明ではない。むしろ今回、あらためて中国共産党の過去の会議動向を調べてみると、昨年11月29日、習総書記が主宰して政治局委員の集団学習会が行われ、そのテーマが「中国の災害応急管理システムと対処能力の整備」であったことが判明した。新型肺炎に対する初期的対応の不手際をみると、学習会の成果は何ら生かされず、習総書記は誤りを認めるどころか、面子を潰されて「怒り心頭」というのが本音ではなかろうか。
3 中央疫情対応工作指導小組の構成等
2月4日、中共中央疫情対応工作指導小組の会議が開かれた。組長は習近平に次ぐ党内序列ナンバー2の李克強総理、副組長は同ナンバー5の王コ寧党中央書記処書記、その他組員(メンバー)は丁薛祥党中央弁公庁主任、黄坤明党中央宣伝部長、蔡奇北京市党委員会書記、王毅外交部長、肖捷国務院秘書長、趙克志公安部長である。王副組長は、習党総書記の日々の業務を取り仕切る事務処理機構の書記処(書記局)の筆頭書記として送り込まれた模様で丁主任(習近平の秘書役)黄宣伝部長(メディア対応役)も書記処書記を兼務しており「党主導」の人事措置となっている。他に国務院(政府)からは王外交部長、肖秘書長(李克強の秘書役)趙公安部長(治安担当)が参加しており、これら3人は副総理級の権限のある「国務委員」兼務のメンバーであり、ヒラの閣僚クラスではない。他方、メンバーとして異例とも思われるのが首都・北京市トップの蔡奇のメンバー入りである。同小組のメンバーとして党中央組織部長(今後の幹部人事担当)や、現場に投入された解放軍を管理する党中央軍事委員会委員を差し置いて蔡奇は何か習近平、李克強から「特命」を受けているのか今のところ不明である。
4 湖北省武漢市の「臨時病院」等
2月3日、新型肺炎の感染拡大が深刻な湖北省武漢市に約10日間の突貫工事で完成させた「臨時病院」である火神山医院(病床数約1,000個)が開院した。同医院は2003年、「重症急性呼吸器症候群」(SARS)が流行した北京市郊外に設けられた「小湯山医院」の経験と成果を基に建設されたという。当時の張雁霊元院長と現行の鄧傳福副院長が北京市から武漢市に派遣されて指導と助言を行ったとされる。火神山医院の院長は張思兵大校(上級大佐)で、人民解放軍総医院(北京301医院)衛勤部長から異動してきた軍人であり、先遣された450人に加え増強された950人を併せた総勢1,400人の医者や看護師も全て軍人である。間も無く完成するとされる雷神山医院(病床数約1,600個)の態勢も含め、深刻な現場は人民解放軍の対応に任されたのである。そして、この軍の対応を背後で指導・管理するのが2016年に「習近平の軍事改革」によって誕生した聯勤保障(統合兵站)部隊で今回の現場責任者は、同部隊副司令員の白忠斌陸軍少将で武漢市長から火神山医院の管理を引き継いでいる。現地の湖北省武漢市では患者の激増で医療態勢が追い付かず病床が不足しているとの一部報道があるが、それは民間の医療態勢の話である。中国内陸部の要衝・武漢市にはかつて軍の後方支援基地が置かれるとともに、湖北省には空挺軍や航空部隊、陸軍部隊の各医療機関や施設が存在している。今後、これら軍施設を民間に開放するか否かは、習近平中央軍事委員会主席の決断に関わってくると言えよう。
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