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2019-12-26 10:36
弾劾すべき政治的品位の欠落
中村 仁
元全国紙記者
トランプ大統領は悪びれることなく、品位に欠ける言動を繰り返し、国内を分断し、同盟関係に亀裂を与え、国際機関・協定を弱体化させています。トランプ氏は民主主義の退潮に拍車をかけています。英国は欧州連合(EU)からの離脱に向かっており、価値観を共有してきた民主主義国が、ばらばらになろうとしています。トランプ大統領を巡っては、ウクライナ疑惑で下院が弾劾決議を通しましたが、上院で過半数を占める与党・共和党は弾劾を拒否するでしょう。絶句するような大統領の振る舞いを誰も止められないでいるのです。
政治学者のフランシス・フクヤマ氏は嘆きます。「最近の10年間に起きているのは、民主主義のリセッション(後退)だ」「中国とロシアが専制体制を敷き、民主主義の自信をくじこうとしている」(日経11/3)。同氏はこうも指摘しています。「もしトランプ氏が再選されれば、多くの国際機関は崩壊するだろう。数年で北大西洋条約機構(NATO)はなくなるかもしれない」(読売12/7)。国際機関に目を向けてみれば、世界貿易機関(WTO)が機能不全の危機に向かっています。米国が上級委員(定員7)の任期が切れた委員の後任を出そうとしないので、紛争処理の審理に入れないのです。WTOの委員会で中国に有利な裁定がしばしば起きたために、不当に不利な扱いを受けたとトランプ大統領は腹を立てているのです。NATO首脳会議でも、IS(イスラム国)戦闘員について、マクロン仏大統領に向かってトランプ氏は「誰でも好きなのを連れて帰ったらいい」と述べました。今の米欧関係に不満が底流にあるにしても、度が過ぎる冗談です。
米国内でも、ウクライナ疑惑に関する議会公聴会の最中、証人に立った前ウクライナ大使をツイッターで「同氏が赴任した国はどこも、ひどくなった」と、個人攻撃しました。民主主義の舞台装置である議会の公聴会に対する侮辱です。また政治から本来は距離を置くべき聖域の連邦準備委員会(FRB、中央銀行)に対し、「根性なしで先見性がない」と、これまたツイッターでの批判です。FRBが利下げを渋っていることが気にいらないのです。圧力をかけたかったにしろ、これまでこんな発言をした大統領はいませんでした。とはいえ、トランプ氏の支持率は40%前後と底固く、この政治的品位、人間的な品位に欠ける人物を支持する地域、階層がいるのは残念なことに事実です。トランプ大統領がグローバル化に取り残され、米国政治、経済に不満を持つ人たちを囲い込もうとしているとの解説をよく聞きます。半ば計算づくの選挙対策、半ば、この人物固有の品格の為せるわざです。
ただ、日米関係は良好で、トランプ氏は安倍首相に暴言めいた言い方はしていません。問題は防衛費の増額要求でしょう。米国はNATO各国にGDP比2%(米国は3.5%)を要求しています。日本に対しては、米軍駐留経費の増額をさせることに関心があるようです。トランプ氏の意識は、日本の防衛費の同1%という数字が少なすぎることに集中していると思います。「もっと増やせ」は「米国製の兵器、装備品をもっと買え」の意味でしょう。この品位の欠落した大統領の要求をどこまで容れるのか、それが日米双方の国益にどう資するのか、あるいは害するのか、よく考えて対米政策を考える必要があるのでしょう。
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