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2019-08-23 11:42
富裕層・大企業への課税強化で日本経済は成長するか
加藤 成一
元弁護士
自民党安倍政権による本年10月からの消費税10%への引き上げに対して、多くの野党からは、今消費税を引き上げなくとも富裕層や大企業の「応分の負担」(課税強化)などにより数兆円規模の財源は確保されるから、消費税の引き上げは不要であり凍結すべきとの主張がなされ、中にはそれにより消費税そのものも廃止できると主張する一部野党も存在する。もとより国民にとっては消費税の引き上げがされないに越したことはない。しかし、今や国家予算の3割以上にも達する社会保障関連費の増大と国の債務残高1100兆円についての対応が与野党を超えた差し迫った課題であると言えよう。
平成27年分以降の個人所得税は、富裕層とされる所得4000万円超で税率45%であり、これに地方税10%が加算されるから、最高税率は55%になる。これはOECD加盟35か国中4番目の高さである。そのうえ、平成27年分以降の個人相続税の最高税率は55%であり、3代が相続すると資産は20%になる。また、平成30年度の法人税の実効税率は29.74%であり、米国27.98%、カナダ26.50%、中国25%、イタリア24%、英国19%に比べて明らかに高い。さらにこれに加え、日本の企業は従業員の社会保険料の50%を負担しているほか、多額の退職金を従業員に支給している。
富裕層にとっては、所得税、相続税共に日本はかなりの高水準であるため、それを敬遠した海外移住や資産の海外への移転が増加していることである。2016年には海外への長期滞在者87万人、永住者46万人に達し(外務省)、この傾向はさらに高まっている。一部野党が主張するような富裕層に対する「応分の負担」と称する更なる課税強化を行えば、明らかにこの傾向がさらに加速され、かえって所得税、相続税の減収になりかねず、海外移住や海外への資産移転の加速は、日本の国力の低下をもたらしかねないと危惧される。また、現在でも諸外国に比べて高水準の大企業に対する更なる課税強化は、日本企業の海外流出を促し、国内産業空洞化の一因になるのみならず、大企業の国際競争力を低下させ、日本の経済成長にとって明らかにマイナスでしかない。IRや人工知能、5Gなど日本の先端科学技術産業の育成発展のためには、大企業をはじめとする日本企業に対する大規模な研究開発投資減税こそが必要不可欠である。法人税の引き下げは企業負担を軽減させ、賃金、投資、配当に回るが、引き上げは、海外からの投資の減少、雇用の減少、賃金抑制につながる。「大企業優遇税制」などと批判されるが、実際は法人税収の7割以上を法人数の0.7%に過ぎない資本金1憶円以上の大企業が負担しているのであり、日本を支える大企業のポテンシャル・パワーを減殺してはならない。
このように、富裕層や大企業への課税強化は、それによる国力の低下や経済成長の停滞減速をもたらす危険性がある。したがって、「応分の負担」と称して実質的には課税強化を主張する一部野党は、それによる日本経済のマイナス面を無視したポピュリズム(大衆迎合)政治であると言わざるを得ないのであり、日本国民には冷静で大局的な判断が求められよう。
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