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2019-04-16 11:05
泥船に乗ったマネー至上経済の行方
中村 仁
元全国紙記者
世界経済は、「過剰に供給されたマネーの海に浮かぶ泥船」に例えられます。「それではいけない」と、量的な引き締めに転じていた米国が一転、「年内は追加利上げの停止」、「景気減速を警戒してマネーは潤沢のままにしておく」という方針転換をしました。10年前のリーマン危機後、米欧日は異次元の金融緩和に走りました。「異常事態のもとでは金融緩和が不可避でも、長期化すると将来に禍根を残す。平時は元に戻して金利機能を生かす。」が常識です。その常識がますます通用しなくなっています。金融政策の正常化や財政健全化をいくら警告しても、むなしい叫びに終わります。結論から申しあげれば、「肥大化したマネー市場は、ちょっとしたきっかけですぐに動揺する」、「選挙で不利となるような政治選択ができない」、「不人気な増税より、痛みを感じない金融緩和や財政膨張に頼る」傾向が強まっています。瞬時に情報を伝達するネット化も、そうした傾向を後押ししています。最後はなにが起きるか。リーマン危機がそうであったように、バブル崩壊という、市場の暴力的な調整に任せるしか道がなくなります。政策的な手詰まりが結局、ダムや堤防の決壊を招き、泥船は沈むのです。
リーマン危機当時の2009年に米議会に設けられた、金融危機調査委員会のアンヘリデス委員長は昨年秋、日経のインタビューで次のように語りました。「ウォール街でいま起きているのは、危機前に起きていたことと一緒だ」、「ウォール街の急回復に対し、何百万人という人が仕事や家を失い、いまだに以前の状態に回復していない。巨額の公的支援で立ち直った金融機関はより強大になった」と。2018年2月に米連邦準備制度理事会(FRB)議長にパウエル氏が就任し、金融正常化への期待が高まりました。昨年は利上げを4回やり、今年は2回の予定でした。金融政策の引き締め、世界景気の減速、米中貿易摩擦などを背景に、株価が動揺を始めると、トランプ大統領はパウエル議長の解任をちらつかせました。政治権力者にとって、株価が最大の経済政治学の指標です。パウエル議長は「追加利上げの停止」、「量的引き締めの停止を意味するFRBの資産縮小」を選択しました。大統領の圧力ばかりでなく、肥大化したマネー市場(株高)は、ちょっとのことで乱高下しますから、金融正常化に向けた動きをとろうにもとれないのです。
「格付けが低い企業への融資をまとめたローン担保証券と呼ぶ金融商品が、世界経済の新たなリスクになってきた」と、日経が報道(2月22日付け)しました。残高は68兆円で、10年で倍になりました。リーマン危機の際のサブプライムローンに似ています。信用力の劣る企業向けの債権で、景気が悪化すれば破綻しかねません。米欧日の中央銀行の総資産(マネー供給の原資)は金融危機前が3.5兆ドルで、現在が14兆ドルと、4倍になりました。これだけマネーを供給してしまうと、政策的な後戻りはできません。株価が動揺するので、正常化は政治的に難しい。その代わり、市場が暴力的に調整に乗り出す。株価の崩壊、不況が発生したら、緊急対策と称して、中央銀行がさらにマネーを供給し、財政出動に乗り出す。
こうして、際限なく中央銀行の財務体質、財政危機が泥沼にはまっていきます。目先の痛みを緩和するために打つ手が危機を深めるのです。黒田日銀総裁は「必要なら追加緩和をする」が口癖です。政治も中央銀行も本当のことを言わず、「そんなことより、まず目の前の危機対策が必要だ」としか言わないのです。
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