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2007-05-11 10:48
確固とした対ロシア戦略構築の必要性
田島高志
東洋英和女学院大学大学院客員教授
先日ミハイル・ベールイ新ロシア駐日大使の講演を聴く機会を得た。新大使は、シンガポール、インドネシア大使を歴任したアジア通の外交官で、講演では現在のロシアの内外政策を広範囲に解説するとともに、日本を隣国として重視しており、貿易投資関係を増大し、領土問題は互いに受入れ可能な国益に応えた形で解決したいとの趣旨を述べた。その後の質疑応答で、出席者からの質問は一様に領土問題に触れたが、私も新大使へ歓迎の意を表しつつ領土問題について要旨次のような要望の発言を行なった。
日ソ関係は互いに隣国として重要であるが、その最大限の発展のためには領土問題の解決が必要である。日本側は、(1)北方4島は日本固有の領土である、(2)4島は日本のポツダム宣言受諾後にソ連が占領したものである、(3)しかも日ソ間の戦争はソ連側が中立条約を破り一方的に攻めて来たものである、との基本的立場にあり、この点はロシアのプーチン大統領及び貴使を含む指導者は理解していると思うが、この問題の解決のためには、ロシアの国会や国民の理解を得る必要もあると思うので、貴使よりロシアの国会及び国民に是非このような日本側の基本的立場を伝えて頂くようお願いしたい。
ところが、これに対して新大使は、「ロシア政府の考えは異なる。領土問題は過去を論ずるのではなく、将来を見つめて解決を図るべきである。過去のことは学者の科学的研究に委ねるべきであり、今後の日ロ間では経済協力関係を拡大し、領土問題を相対的に小さな問題にして行く必要がある。そうすれば領土問題の解決もより容易になる」との反論を述べた。
私は日ロ関係の専門家ではなく交渉に参加した経験もないので、ロシア側のこのような考え方を初めて直接耳にして唖然とするとともに、ロシア側のしたたかな強引さをあらためて知らされた思いがした。そして、日本としては、北方領土問題を極小化させようとのロシア側の戦略的ペースに巻き込まれることなく、機会あるごとに官民あげて粘り強く執拗に日本の立場を繰り返し主張して行くことが肝要であると痛感した。ロシアとは経済文化面での協力を拡大することも必要であるが、残された戦後処理の大きな問題である北方領土問題の比重を落とさないよう確固とした対ロシア戦略を築く必要があると思われた。
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