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2018-11-16 10:32
米中間選挙をみる新聞論調の甘さ
中村 仁
元全国紙記者
米中間選挙は予想通り、下院で民主党が過半数を奪還し、上院は共和党が過半数を維持しました。数多くの論点や視点の中で、私は8年ぶりの議会のねじれ再現のプラス効果、米国主導のグローバル化が招いた米国社会の分断という皮肉、日本には想像できない米国政治の活力の3点に着目することにしました。新聞論調は大きな変化が起きると、「政治の混迷が進む」、「米国の分断は深刻さを浮き彫り」など、何事も心配してみることから始めます。さらに、「日本は戦略的に対処すべきである」、「日本はしっかり身構えておく必要がある」など、ほとんど空疎な言葉を並べ立てる習性があります。
主要紙は一面のトップ記事で、議会のねじれを最大の注目点にしています。「民主下院奪還、議会ねじれ」(朝日)、「上院共和、下院は民主」(読売)、日経も似た紙面です。さらに「トランプ政権に痛手」(読売)、「政権に足かせ」と、よせばいいのに、政権側に立った表現が目立ちすぎます。トランプ大統領の強引、乱暴な政治手法にブレーキをかけるには、議会のねじれは積極的に評価すべきです。ねじれが日本の政治空白を生んだとのマイナスの記憶で、米国も論じるのです。「米国第一(トランプのスローガン)に逆風」(読売)はどうでしょう。政権寄りの表現です。行きすぎた「米国第一」は是正すべき問題なのですから、「米国第一に待った」が正しい。社説では、「両院の分断は政治の機能不全を招くはずだ」(朝日)、「トランプ流政治の停滞は避けられまい」(読売)、「民意が分断された米国の姿を浮き彫りにした」(日経)などです。機能不全、政治停滞という劇薬を飲まなければ、トランプ独裁政治は改まらないという認識こそ必要なのです。トランプ氏は勝ったのか、負けたのか。アメリカ総局長の解説コラム「多くの州で、共和党は上院の議席を守り抜いた。少なくとも負けてはいない」(朝日)には驚きました。負けという解釈が正しい。上院(定数100)は人口の多少にかかわらず、各州に2議席ずつ配分し、2年ごとに3分の1を改選します。一方、下院(定数435)は人口に応じて議席を配分し、人口の多いカリフォルニア州は53議席です。下院は世論の動向を敏感に反映し、上院は反映しにくいのです。下院で民主党が議席を大幅に伸ばしたことを思えば、全体として、トランプ氏は「負けた」のです。州知事選挙も民主党の勝ち、共和党の負けです。
次は米国社会の分断についてです。「いっそう深まった。この国の政治は視界不良のままだろう」(朝日社説)、「分断修復では、両党は歩み寄り、トランプ氏に妥協を促すことだ」(読売社説)。これらもあまり意味をなさない表現です。社会の分断は米国だけの現象ではありません。欧州も深刻です。社会の分断は、要約すれば、グローバリゼーションによる自由競争第一の時代に入り、産業、企業、社会階層が勝ち組、負け組に寸断されていることから生じています。さらにマネー経済が富裕層と低所得層の格差拡大を招いています。また、生き方や価値観の多様化で社会に亀裂が走り、ネット社会がそれを拡散しています。米国発の経済原理が世界に広がり、その結果がブーメランのように、自分たちに降りかかってきており、自ら招いている分断です。「両党は歩み寄りを」で解決できる次元の問題ではありません。分断は不可避の社会的コストとみるのか、経済社会の基本的原理の修正に取り組むのか、そのどちらかです。それにしても、米国の政治、社会の活力や新陳代謝は旺盛ですね。女性の政界進出は、上院で23人、下院で237人、知事選で16人が立候補し、過去最多となったそうです。若者層(18~29歳)の6、7割が民主党に投票したようです。
米国の政治、経済、外交力の低下による危機感がトランプ大統領を生み、トランプ氏の政治手法が常軌を逸しているとみると、それが政治的なうねりにつながっています。日本の政界では、世襲議員の比率が増えて、多様な人材が参入しにくく、新陳代謝が進みません。候補者の選定でも首相が最終的な権限を持ってしまっているため、米国の予備選のように、ゼロからスタートし、候補者の座を勝ち取ろうとする動きも見られません。米国の選挙をみながら、日本政治、政界の問題を考えてみる視点、論点はほとんど見当たりません。メディアの政治担当が永田町(国会議事堂、官邸の所在地)の町内会の住人のようになってしまい、広い視野から政治を見つめ直すという習性を身につけていないのです。
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