第1の問題点は、言わずもがな、ソ連邦崩壊の主因として指摘されているように、人々の労働意欲が著しく低下してしまう点です。人間の中には、本能的に“快楽”を求める人々もおりますので、こうしたタイプの人々は、働かなくても生活できるならば、敢えて職を持って職場で苦労しようとはしないでしょう。もっとも、この点に関しては、仕事に喜びを見出すタイプの人々の存在を根拠として、クリエーティブな仕事が増えるとする反論があるかもしれません。しかしながら、世の中には、しばしば“3K(きつい・汚い・危険)”、あるいは、英語では“3D(Dirty, Dangerous and Demeaning)”とも表現されるように、なり手が少なく、相応の報酬があってこそ成り立つ職業もあります。第1点に関連して第2点として指摘し得ることは、経済全体のメカニズムから見れば、全員、あるいは、大多数が働かないで生活を送ることは、事実上不可能なことです。何故ならば、生活に必要となる物品や施設等を造ったり、行政サービスも含め、それらを提供する人も同時にいなくなるからです。ベーシックインカム論は、個々人の所得の保障面ばかりに注目してメリットを説いていますが、たとえ所得があっても、消費する‘もの’や‘サービス’がなくなれば、経済のサイクルは停止します。人々の労働市場からの撤退とは、即ち、生産物の減少や経済活動の縮小をも意味しますので、経済レベルは自ずと低下せざるを得ないのです。また、需要と供給から成り立つ価格形成のメカニズムからすれば、それは同時に、‘もの’や‘サービス’不足による物価高騰を招くかもしれません(財源が政府紙幣の発効であれば、悪性のインフレも…)。第3の問題点は、スイスで実施されたベーシックインカムの導入を問う国民投票においても議論された財源問題です。上述したように、経済は低減傾向を辿りますので、法人税、所得税、付加価値税等、何れの租税の種類において税収も低下することでしょう。大幅に減少した歳入からベーシックインカムに必要となる予算が割かれるのですから、長期的には給付額や他の政策予算を削減しなければならない事態が予測されます。予算不足により行政サービスも低下しますので、社会インフラを含めた人々の生活の質も劣化することでしょう。