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2007-04-18 20:27
氷は解けたか?
鈴木馨祐
衆議院議員
昨年秋の安倍総理の訪中以降日中関係の改善が話題となっている。胡錦涛主席以下中国側は日中間の「戦略的互恵関係」を盛んに喧伝しており、日本側もそれに積極的に応えようとしているようである。先の温家宝首相訪日の際の国会演説も基本的にはその文脈から外れていないといえよう。日中は隣接するアジアの二大国であり、その安定的な関係やパートナーシップは非常に重要である。その親密な友好関係は積極的に進めていかなくてはならない。
しかし同時に、日本としては実際に日中関係の実態が「互恵」となっているのか、中国側の真意についての冷静な分析が必要であろう。次の一例を我々はどう考えればよいのだろうか?日中の未来志向の前向きな二国間関係に向けた第一歩として今回の温家宝首相来日に期待していた私は、非常に衝撃を受けた。
温家宝首相訪日中、安倍総理との会談が行われ、日中の共同文書が発表され、国会演説が行なわれた。日中間の大きな棘となっている東シナ海のガス田問題につき、「共同開発は双方が受け入れ可能な広い海域で行なわれる」との前向きに取れる見解が、温家宝首相の口からも明言された。まさにその直後の4月12日に、中国の外交部が記者会見でプレスに向け明言したのが、次の意のコメントである。「中国の権益内でのガス田開発は当然の権利であり、春曉(白樺)ガス田は共同開発の対象外である。共同開発の対象は日中の係争海域に限られる」。つまり、日中中間線の日本側海域のみが共同開発の対象となるという一方的主張を、外交部の公式スタンスとして改めて明言したわけである。
このこと一つをとっても、果たして中国が「言っていること」と「やっていること」は一致するのか、中国は信義ある交渉相手と考えうるのか、極めて疑わしいと考えざるを得ない。彼らの口から出てくる「互恵」の言葉が、実を伴うものとなるのか、感情を排して慎重に分析する必要があるのではないだろうか。しばしば日本企業に対する嫌がらせが減ったからとか、中国が環境技術などについて日本企業との大型契約を考えているからとかの理由で、中国も日本に譲歩しているのだという声を耳にする。しかし本当にそうなのか?進出企業に嫌がらせをするのはそもそも許されことなのであって、それを止めるのは譲歩でなく、「国際ルールを守るようになった」だけであって、異常な状態のただの正常化である。また日本の環境技術が一番進んでいる以上、政治と関係なく契約はなされてしかるべきであろう。中国の譲歩では全くないのである。従ってこれをもって互恵の象徴とするのは、全く正しくない認識であると私は考える。
そんな目で今回の温家宝首相の訪日に伴い合意された文書を丹念に読んでみれば、中国側が適正化以外に日本に対してコミットしたことといえば、わずかにトキ二羽だけなのであることがわかる。経済、環境、海洋権益、将来の「互恵」を信じて日本だけが先んじて譲歩を行なったり、中国市場というバスに乗り遅れるなとばかりに慎重なリスク分析を欠いて積極的なコミットをしてしまえば、技術流出、安全保障上の脅威の増加など、日本の国益の観点から取り返しがつかない損失となることを忘れてはならない。
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