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2016-12-09 08:47
小池にはオリンピックへの大局観がない
杉浦 正章
政治評論家
朝日川柳に「会場のための五輪のように見え」「醒(さ)めました五輪やめたい人多し」という川柳が入選していたが、どうも小池ポピュリズムが鼻につく。「会場変えろ」と騒ぎ立てたが、迷走の末3会場は原案通りとなった。まさに都庁詰めの記者が見事に指摘したとおり「大山鳴動ねずみ一匹」であった。小池騒動に欠落しているのは、オリンピック選手らを、鼓舞激励するべき立場にありながら、選手の気持ちなど度外視で、ひたすら自らの人気取りに走っていることだ。まるでどこかの県にいた騒音ばあさんのようである。望みを抱いた宮城、神奈川などの県民は期待外れに終わり、怨嗟の声が小池に向き始めた。都知事選で立て続けに失敗して民度に懸念がある都民も、ようやく問題の所在に気付いてきたようだ。
小池は「大山鳴動」質問に、薄気味悪い笑顔で「失礼じゃないですか」と金切り声を上げた。薄気味悪いというのは、目が笑っていないからだ。「知事として瑕疵(かし)になるのでは」との質問に「それは当たらない」と述べるとともに、問題をあらぬ方向にすり替えた。なんと「大きな黒いネズミがたくさんいる。これらの黒いネズミをどんどん探してゆきたい」と続けたのだ。筆者は、かつてロッキード事件で法相稲葉修が鮎釣をしながら「大物をどんどん釣り上げる」と発言したことを思い出した。検察当局に指揮権がある法相だからこの発言は可能であるが、都知事があたかも“オリンピック疑惑”を捜査するかのごとき発言をするのは、お門違いである。知事自らが証拠もなしに“風評源” となってはいけない。小池は都議会でこの発言について聞かれると「ご想像にお任せします」と答弁したが、これも都民のあらぬ想像をかきたてる“風評作戦”であり、まるで三流週刊誌のトップ屋のような表現で、聞くに堪えない。
小池はおそらく、近く3会場の変更が実現しなかったことを弁明して、建設経費削減効果があったことを指摘するだろう。しかし、都知事は家庭の主婦とは違う。家庭の主婦が家計簿を精査して、無駄遣いを見つけることはきわめて尊い行為だが、都知事は少なくとも大局を見ることを最優先すべきであろう。オリンピックには、ヒットラーが行った国威発揚とは別次元の国威発揚の意味が多かれ少なかれ濃厚である。最近では北京オリンピックがその成功例であり、オリンピックを成功裏に実現することは、世界の見る目が変わるのである。青少年のスポーツ指向を進め、健全化の風潮を強めることができる。オリンピックとは国家健全化策の最たるものであろう。加えて重要なのはオリンピックがもたらす経済効果である。小池は都庁や組織委を動かして3会場で412億の建設費を削減したことで、会場変更に失敗した問題を繕うだろう。しかし、オリンピックのもたらす経済効果は桁違いのものがあるのだ。日銀が発表した経済効果に関するリポートによると、関連施設の建設や外国人観光客が増えることから、14~20年の7年間で国内総生産(GDP)を累計25兆~30兆円押し上げる効果がある。訪日外国人の数が現在の約2000万人から、2020年には約3300万人まで拡大し、五輪関連の建設投資総額は2020年までに10兆円に達するという。2015〜18年に実質GDPが年平均で0・2〜0・3%押し上げられ、2018年には14年と比べて約1%の押し上げ効果があるとしている。
だからといって都民の血税を浪費してはならないが、簡単に言えば「収益」は、何十倍もプラスに作用するのだ。日本の評判が上がることの地球規模での副次効果も計り知れない。小池はパフォーマンスより、大きな視点を持つべき時なのだ。これはないものねだりかもしれないから、首相・安倍晋三が先頭に立って選手の鼓舞激励策を次々に打ち出すべき時だろう。このままでは冒頭の川柳のような風潮が国をおおってしまう。オリンピックは既に盗作エンブレムの白紙撤回、国立競技場の設計変更と二度にわたる“ケチ”が付いている。今度で3度目であり、1964年東京オリンピックが全国民の希望の対象であり、“ケチ”など付けるものは1人もいなかったのと対照的である。
小池は自民党の党則を無視し、都知事選でその党則違反の小池を押した7人の区議をかばい続けた。しかし、自民党都連が除名処分にしたことは当然である。選挙に関する反党行為は厳しくしなければ、組織として示しが付かない。7人は自民党幹事長・二階俊博との会合も拒否し、度重なる処分延期での都連会長下村博文の説得も無視し続けており、除名は当然のことである。党本部は驚いたふりをしているが、図りにはかった対応であろう。問題は小池の一の子分の衆院議員若狭勝がかつて「区議が除名になれば、自分も離党する」と離党を示唆してすごんでいたが、うんもすんもない。その発言通り男らしく離党届を出すべきだろう。都議会本会議で、自民党が慣習になっていた事前の調整なしに質問をしたことが、「大人げない」などとテレビメディアのやり玉に挙がっているが、責任は小池の側にある。小池が「なれ合いや根回しはいかがなものか」と調整拒否の発言をしたから、自民党が事前調整をしなかっただけのことである。このように自民党と小池がガチンコ勝負の様相を示しているが、「大山鳴動ばあさん」のポピュリズムはいずれ挫折するだろう。ポピュリズムのネタには限界もある。人気は下降傾向をたどり、「小池新党」などを作っても、大阪の「維新」とは異なり、2012年に滋賀県知事の嘉田由紀子が立ち上げた「脱原発」が旗印の新党「日本未来の党」と同様の運命をたどるだろう。維新にはしっかりした座標軸があったが、小池には軽佻浮薄なる大衆迎合しかないからだ。
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