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2016-11-05 11:45
中国のガス田開発問題
倉西 雅子
政治学者
東シナ海での日中対立は、近年、周辺海域での中国の活動が活発化したために、尖閣諸島に注目が集まってきましたが、ガス田開発問題も両国間に横たわる懸案です。同海域の境界が定まっていない段階にあって、一方的に開発を進める中国に対して、日本国側が抗議する構図が続いており、一向に埒があきません。しばらく小康状態が続いていたのですが、最近、中国による一方的な採掘の開始が確認されており、海底地層部においてガス田の鉱床が繋がっている以上、日本国側としては、時間的な猶予が全くありません。口頭や文書で抗議をしても、聞く耳を持たない中国が実力行使で採掘を強行したのでは、日本国政府は、みすみす自国のEEZ内の天然ガスまで吸い取られるのを黙って見過ごすこととなります。これでは、国連海洋法条約が加盟各国に認めているEEZの権利侵害となりますので、日本国政府が有効な手を打ちませんと、国際法秩序をも損ないかねません。
そこで、日本国政府が、最初に取るべき手段があるとすれば、それは、仲裁裁判の活用です。この手法は、南シナ海問題においてフィリピンが選択しておりますが、日本国政府もまた、国連海洋法条約第287条5に基づいて、単独でも提訴することができます。おそらく、南シナ海問題に際して<統合>同様に、中国は、第298条の”適用からの選択的除外の宣言”を持ち出して仲裁から逃れようとするでしょうが、今般の仲裁提訴では、(1)紛争未解決状態での中国による一方的開発の違法性(国連海洋法条約第74条3、第83条3、及び、第283条の解釈…)を問うことができますし、また、ガス田の軍事拠点化の兆候も見られることから、(2)中国による平和利用の違反(第301条等)を争点とすることもできます。さらに、中国の適用除外宣言は、東シナ海のガス田問題ならば、調停に持ち込める可能性もあります(同条約第297条(a))。
なお、現在、中国は、大陸棚の沖縄トラフまでの延長を大陸棚限界委員会に申請しておりますが、同委員会は、これまでのところ、この申請について結論を下していない模様です。仮に、大陸棚限界委員会が中国の申請を却下した場合、東シナ海での日中中間線が確定し、境界線に関する争いは消滅します(もっとも、中国が、この判断を不服として司法的手段に訴える可能性は残る…)。仮に、大陸棚限界員会の決定が間近であるならば、上述した仲裁に訴える必要はなくなります。日中中間線が確定すれば、日本国も、共同開発の手法に頼ることもなく、東シナ海のガス田開発に単独で着手することができるからです。
何れにしましても、日本国政府は、大陸棚限界委員会の動きを注視しながら、中国のガス田開発については、仲裁裁判への提訴を視野に対策を検討すべきではないでしょうか。中国を国際法秩序に組み込みことこそ、国際社会が真剣に取り組むべき最重要課題の一つなのであるからです。そして、たとえ中国が、南シナ海問題に次いで、当問題での仲裁裁定を頑なに拒否し続けたとしても、日本国の権利主張の正当性が認められ、正義は日本国にあることだけは確定するのですから。
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