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2016-09-22 20:29
日中韓対話に参加して
池尾 愛子
早稲田大学教授
日中韓対話が9月21日午後、グローバル・フォーラムと日中韓三国協力事務局(Trilateral Cooperation Secretariat、TCS)の共催で都内で開催された。TCSは三国の協力関係強化のために2011年9月にソウルに設立された政府間国際機関である。日中韓三国協力は、北東アジア地域の協力における重要な柱として、1999年にASEAN+3首脳会議の際に行われた日中韓首脳朝食会から始まり、2008年には日中韓サミットがASEAN+3の機会とは切り離して初めて単独で開催された(パンフレット「CJK Together(共に歩む日中韓)」2016 参照)。三国間の協力を制度化して恒久的なものにしたいとの希望が込められ、経済などのデータを収集して研究レポートを公表するとともに、東南アジア諸国連合(ASEAN)、アジア太平洋経済協力(APEC)、国連(UN)、欧州連合(EU)など他の国際機関との協働も機能的活動に含められている。
今回の日中韓対話は3か国の各代表とTCS次長のスピーチの第1セッションから始まった。第2セッションのテーマは「変動する国際政治と日中韓三国協力の可能性」、第3セッションのテーマは「グローバル経済における日中韓三国協力の展望」であった。会議録はのちほどグローバル・フォーラムのウェブサイトに掲載されるとのことなので、本欄には私の感想を記しておきたい。本対話の目立った特徴といえば、ヨーロッパ諸国を初め域外諸国の大使館員達がかなり参加していたことが挙げられるかもしれない。グローバル化は進展を続ける一方で、各地域はそれぞれの問題をかかえている。
第2セッションでは、北東アジアが直面する北東アジア的な問題状況がはっきり表れたのではないか。域外の東アジア専門家以外の人々の注目は、東アジアといえば中国に集中する傾向がある。しかし、東アジアにおいて中国と韓国の間に、北朝鮮(DPRK)が位置する。域外の専門家以外の人々にも東アジアや中国を見るときに、認識していただきたい点である。朝鮮半島での南北統一が語られる一方で、北朝鮮の核開発抑止については中国に期待がかけられてきた。しかし、中国には北朝鮮の核開発や軍事力強化を抑えるインセンティブがあまりない、というよりも、現状を容認する姿勢が見受けらる。「援助をやめると、難民が発生する」との認識がある。他方で、不測の事態に備えるためには三国協力が必要なはずである。
第3セッションではまず、TCS設立以降、3か国の協力が政府間メカニズムとして60にわたって制度化されていることが紹介された。ただ、日中韓自由貿易協定(CKJ-FTA)交渉は中断したままになっている。韓国は、EUやアメリカとFTAを結んだあと、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)にも関心を寄せている。日本では交渉終結後のTPPの行方がどうなるかを待ちつつ、EUとのFTAについても考えなくてはならない。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の議論には中国も参加している。国際貿易の効果は素晴らしい。改革開放の前と後の中国を比べれば一目瞭然である。物品だけではなく、サービスや情報、知識が外からの人々によってもたらされたのである。貿易のない世界は現実では考えられないが、貿易によって各国の労働条件や自然環境を悪化させてはいけない。だからこそ、各国で足並みを揃えて労働条件を改善するために1919年に国際労働機関(ILO)を設立し、関税や非関税障壁を削減するために貿易と関税に関する一般協定(GATT)を発足させて世界貿易機関(WTO)の誕生につなげ、自然環境を改善し地球温暖化を防ぐために2015年末に「パリ協定」に合意したのである。また技術進歩による変化のない世界は考えられない。個人や企業の発明・創意工夫を擁護するために、特許や知的財産権が確立されたのである。経営が悪化した(大型の)国営企業が補助金によって輸出を伸ばすと、海外の効率の良い民間企業で働く労働者達が失職することになる。世界で貿易が活発になり始めてから、政府間で議論して貿易や経済活動に共通の規則を設けてきたのである。CKJ-FTAについての交渉の再開と、TCSを擁する韓国の活躍にも期待したい。
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