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2016-08-26 15:20
SDR建て債の発行は中国の危うさを表わす?
倉西 雅子
政治学者
先日の日経新聞の紙面に、中国の国家開発銀行が、IMFが通貨危機への準備として各国に配分している仮想通貨であるSDR建ての債権を発行するとの記事が掲載されておりました。“人民元の国際通貨化への布石”と銘打ってはいますが、SDR建て債権の発行は、むしろ、中国経済の危うさを示唆しているのではないでしょうか。
昨年、IMFが、中国の人民元をバスケット通貨であるSDRの構成通貨(前構成は米ドル、ユーロ、円、ポンド)に採用することを決定した際には、いよいよ人民元が国際通貨として国際舞台に躍り出たとする評価もありました。一頃には、ロシアと共にSDRの世界単一通貨化を狙っているとも噂され、今般のSDR建て債の発行の記事が目に入った時も、一瞬、中国が早くも“世界中央銀行”の座に手を伸ばしたのかと身構えました。
しかしながら、記事の内容を読んでみますと、満期までの期間6か月程度と短く、SDR建て債の“中央銀行券化”にはほど遠いようです。各国に配分されているSDRそのもので売買されるのではなく、その実態は、米ドル建ての債権のようなのです。当記事では、日本のメガバンク3行にも購入を呼び掛けているとしていますが、SDR自身は、政府やIMFが指定した公的金融機関しか保有できませんので、毎日ロンドン市場の正午の為替相場に基づいて算出されている米ドル換算のSDR相場によって取引されるとしか考えようがありません。となりますと、潤沢な外貨準備を有するとする中国の看板には偽りがあり、実際には外貨調達を必要としており、その手段としてSDR建ての債券の発行を計画したと推測できるのです。
SDR建ての債券の発行は、国家開発銀行の他にも、世銀や中国人民銀行も検討しているそうですが、弱含みの人民元を背景に外貨調達に苦慮した中国が、SDRの信用を利用しようとしているとしますと、SDR建て債の発行は、人民元のさらなる下落をも予感させます。あるいは、今年10月1日からのSDRの構成通貨への参加を前にして、バスケット通貨であった人民元の事実上の“ドル・ペッグ”を停止しなければならず、そのマイナス影響を和らげるために、SDRという別の安定したバスケット通貨の枠組みに寄生しようとしている可能性もあります。そしてそれは同時に、国際準備資産としてのSDR自身の不安定化をも招くのではないかと危惧するのです。
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