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2016-07-11 14:50
英EU離脱とポーランド問題
倉西 雅子
政治学者
EU離脱を問うイギリスの国民投票は、終盤では移民問題が主たる争点となりました。最も多いのがポーランド人移民なのですが、この現象は、ポーランド問題の深刻さをも露わにしています。
2014年の統計によりますと、イギリスにおけるポーランド人移民の数は83.3万人に上るそうです。イギリスは、ヴィザやパスポートなしでの入国を可能とするシェンゲン・アキからはオプト・アウトしているものの、EU域内であれば、人の自由移動は原則自由ですので、働き口さえあれば無制限にイギリス国内に居住することができます。それでは、何故、群を抜いてポーランド人移民の数が多いのでしょうか。
その理由の一つには、グローバル言語とも化している英語が通用することや、既に親族等が居住していることも挙げられるのでしょうが、ポーランド側にも要因がありそうです。昨今、ポーランドでは、政権側が報道統制を強めるなど、“プーチン化”が懸念されております。ロシアの影響力の拡大を警戒してか、EUも、ポーランド政府に対して警告を発していますが、崩壊したはずの旧社会・共産主義体制への揺り戻しが見られるのです。その原因の一つに、自由主義や民主主義にシンパシーを感じ、かつ、高い技能をも備えた若者たちが、国外に流出しているという現実があります。自国に留まって、ポーランドを自由で民主的な国家とすべく、忍耐や努力を要する国造りに参加するよりも、てっとり早く自由が満喫できる“西側諸国”に移住してしまうのです。政権側が強権志向を強めれば強めるほど、この傾向に拍車がかかります。この結果、ポーランドには、社会・共産主義体制に慣れ親しんできた中高齢者層が残り、国家としての活力を失う結果を招いているのです。1989年の東欧革命がポーランドの地から始まったことを思い起こしますと、俄かには信じられない事態です。
ポーランドで起きている現象は、多かれ少なかれ、他の中東欧諸国でも観察されることでしょう。人の自由移動による若年人口の流出が、ロシアと接する中東欧諸国を徐々に親ロ派に染めてゆき、東部国境地帯の弱体化を招来しているとしますと、これほど皮肉な結果もありません。現在の欧州理事会常任議長のトゥスク氏もポーランド出身ですが、EUの掲げる人の自由移動には、深刻なパラドックスが潜んでいると思うのです。
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