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2016-05-25 15:01
イスラム教徒のロンドン市長
倉西 雅子
政治学者
先日、ロンドン市長選挙において、イスラム教徒のサディク・カーン氏の当選を伝えるニュースが飛び込んできました。パキスタン出身の父を持つとのことですが、氏は、当選受託演説において、「ロンドンが不和ではなく団結を、恐怖ではなく希望を選択したことを誇りに思う」と述べております。
イスラム教徒のロンドン市長の誕生は、移民問題に揺れる混沌とした現代という時代の象徴のようにも見えます。イスラム過激派による地下鉄テロ事件を経験し、移民問題をめぐってEU離脱の賛否が拮抗する中、首都ロンドンの市民は、イスラム教徒を市長に選んだのですから。氏の当選には、ロンドンの人口に占める移民系住民が、既に過半数を超えたことも影響しているのでしょう。住宅不足の解消、治安の改善、並びに交通渋滞の緩和といった比較的宗教色の薄い行政問題が選挙の争点となったそうですが、民主的選挙は数の勝負となりますので、移民人口が増えるほど、移民系候補者の当選確率は高まります。イスラム教徒のロンドン市長は、イギリス史上初めてのケースとなりますが、果たして、カーン市長は、ロンドン市民に団結と希望を与えるのでしょうか。
アメリカで史上初のアフリカ系としてオバマ大統領が誕生した時、国民の多くは、人種や政治的立場の違いを越えた国民統合の実現を期待したそうです。しかしながら、二期目の任期も残り僅かとなった今日、アメリカ社会の亀裂は逆に深まり、就任当初の国民の高揚感も今や冷めています。アメリカの事例は、言葉で言うほどには、“団結”が容易ではないことを示しているのです。
今般の選挙結果に対するロンドン市民の様子を見ますと、オバマ大統領の当選時のような楽観的で晴れやかな雰囲気もなく、どこかしら不安げにも見えます。カーン市長は、“市民は団結を選んだ”と断言しておりますが、イスラム教徒の市長当選が、どの程度、その多数がキリスト教徒である一般のイギリス国民と、移民であるイスラム教徒との団結を促すことになるのかは、今後の推移を見守るしかないのではないかと思うのです。
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