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2016-05-18 13:23
パナマ文書があぶり出す醜くゆがんだ国際金融
田村 秀男
ジャーナリスト
パナマ文書が暴露しているのは、タックスヘイブン(租税回避地)に集う政治家など権力者や富裕層、多国籍企業の正体ばかりではない。図らずも、醜くゆがんだグローバル金融の姿をあぶり出しつつある。
パナマ文書で際立つのは、中国と香港である。ペーパーカンパニー数、個人・法人数ともダントツだ。年間で数千億ドルに上る中国からの逃避資金の最大の受け皿が香港、香港経由でバージン諸島、ケイマン諸島など他のタックスヘイブンに資金は移される。中国資本は名義上「外資」となって、工場ばかりでなく不動産や株式に投資する。規模は巨大で、逃げ足は速い。中国の不動産や株式の相場が短期間で急騰し、バブルとなってたちまち崩壊。環境を無視した膨大な過剰生産設備が放置される。世界の株式市場ばかりではなく、実体景気不安を引き起こす。タックスヘイブンを拠点に増殖する国際金融市場の仕組みを最大限活用しているのが中国であり、中国発の市場波乱とは現代国際金融システムが生み出した鬼子なのだ。
日本はどうか。パナマ文書上で判明した個人・法人数は約600件ときわめて少ない。パナマ文書はあくまでもタックスヘイブンの一角という事情からくるかもしれないが、国際金融面での日本の存在度合いは格段に大きい。世界の主要中央銀行の総本山、国際決済銀行(BIS、本部スイス・バーゼル)統計によると、法人が帳簿上でのみ外国籍となるオフショア地域(タックスヘイブンと同一)で日本法人は金融資産残高で世界最大シェア約25%を占め、昨年末で約7,400億ドル(約80兆円)に上る。パナマ文書中最大のタックスヘイブン、バージン諸島は英国の中に組み込まれ、BIS統計から除外されているが、2015年では日本だけがBIS分類上のオフショアでの資産を前年比で1千億ドル増やし、対照的に英米など主要国資産を減らした。つまり、日本は国際金融市場での最大の資金の出し手なのである。
日本企業も金融機関も余剰資金を国内で回さず、投機色の強い国際金融市場で運用している。対照的に国内経済はゼロ成長、マイナス金利政策に踏み切っても円は投機ファンドに買われ円高になって、デフレ圧力が高まる。課税の適正化での国際協調は、今月下旬の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で大いにうたえばよい。しかし、私たちの生活に反映する消費や投資、すなわち実体経済にあだなすタックスヘイブン本位の国際金融システムのもとで、国内資金需要を殺す増税と緊縮財政ばかりやっていたら、日本の再生は遠のくばかりだ。
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