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2016-02-18 16:40
“万国の労働者よ、中国共産党のために働け”になる?
倉西 雅子
政治学者
政府発表を信じるとすれば、かろうじて6%台の経済成長率を維持したとはいえ、減速感が漂う中国経済。上海証券市場の株価も不安定な動きを見せている昨今、習近平主席は、危機脱出の道を海外企業の大型買収に見出そうとしているようです。しかしながら、果たして、中国企業を、“普通の企業”と見なしてもよいのでしょうか。
中国企業による企業買収については、イタリアのタイヤ・メーカーピレリを買収した時にも驚きの声が聴かれましたが、先日公表されたスイスの農薬大手シンジェンダの買収は、その規模からして群を抜いています。買収総額が5兆円を越えるというのですから。買収先のシンジェンダは、モンサントやデュポンと並ぶ世界最大規模のアグリビジネス企業であり、昨年には、モンサントが、シンジェンダの買収を打診していたそうです。この時は、モンサント側の提案額が低いとして、シンジェンダ側が提案を拒否していますが、巨額のチャイナ・マネーには抗し難かったようです。
その一方で、買収側である中国企業とは、国有企業である中国化工です。中国については、“市場経済国”と認めるか、否かをめぐって、現在、議論されていますが、現在進行しているのは、政府系企業の“ドラゴン化”です。一般的な予測とは逆に、中小の民間企業は、政府系の企業に買収され、政府系企業のみが巨大化しているのです。しかも、中国化工は純粋な国有形態らしく(少なくとも株式は非公開らしい…)、当然に、中国共産党の支配下にあります。シンジェンダの買収の背景には、13億の人口を抱える中国国民の食糧問題があり、買収後に、私企業であったはずのシンジェンダは、中国政府の農業政策の一環に組み込まれる、すなわち、中国の国策企業となることでしょう。
今のところ、EUの競争当局の動きは鈍いようですが、このように考えますと、中国国営企業による買収の案件については、私企業間における一般のM&Aと同列に扱うことには疑問があります。今後とも、中国の政府系企業による海外大手の買収が続くとなりますと、“万国の労働者よ、中国共産党のために働け!”ということになりかねない、と思うのです。
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