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2015-10-02 11:48
シリア難民・移民問題:偽善が善を破壊する
倉西 雅子
政治学者
注目を集めてきたEUの難民・移民問題は、理事会における多数決採決という異例の措置をとることによって、加盟国受け入れ分担義務化が決定されたと報じられております。この問題、これで一件落着となるのでしょうか。
命の危険がある人々を救うことは紛れもない善です。しかしながら、シリア難民・移民問題については、純粋に人道問題では割り切れない側面があります。何故ならば、受け入れ側と移民側の双方において、偽善が垣間見られるからです。受け入れ側の理由としては、ドイツの動機が、必ずしも純粋にヒューマニティーに基づく善意から発しているわけではないことです。ドイツ側の説明によりますと、移民受け入れの背景には、第二次世界大戦時のユダヤ人迫害で傷ついた自国のイメージの回復があるそうです。つまり、”人道国家”としての看板を得たいという名誉欲が、ドイツをして移民の大量受け入れに駆り立てたのです。加えて、好景気を背景とした低賃金労働力の獲得も指摘されております。
一方、難民・移民の側はどうでしょうか。難民・移民の映像からも分かりますように、これらの人々は、斡旋業者に高額の密航手数料を支払える中・高額所得層に属しており、シリアでも恵まれている人々とされています。難民ではなく移民であるとする批判的指摘の理由もここにありますが、貧しい人々は、身に危険が迫りながら逃げるに逃げられず、苦境に甘んじております。真に人道的に救うべき悲惨な境遇にあるのは、むしろ、紛争地域にあって難民・移民にもなれない人々です。実際に、ヨーロッパに到着した難民・移民の身なりは比較的良く、高額であるはずのスマートフォンさえ携帯している姿も見られます。これらの他にも、この問題を巡っては、首を傾げざるを得ない側面が少なくありません。
全てとは言わないまでも、偽善は、時にして、善をも破壊するものです。社会の安定や安全もまた疑いなき善でありますので(受入側の国民世論も分かれている…)、双方が偽善に満ちているシリア難民・移民問題の行く末は、深く懸念せざるを得ないのです。
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