ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2015-09-25 21:33
安倍首相は「戦後レジームからの脱却」論を引っ込めるべき
谷本 拓
団体職員
先般、いわゆる安保関連法案が国会で成立しました。日本の外交・安保政策が国際社会との調和に向けて一歩踏み出したという意味でまことに慶賀すべきことといえます。このような難題をクリアされた安倍首相のリーダーシップと政治的手腕には深く敬意を表したいと思います。他方で、安倍首相がかねてから唱えておられる「戦後レジームからの脱却」というスローガンについては、「いただけない」という感じがしています。
以下にその理由を述べます。まずは「戦後レジーム」の意味ですが、国際社会(とくに西側先進諸国)からみれば、それは第一義的には「ヤルタ・ポツダム(YP)体制」だといえます。国連がその象徴的存在ですが、国連憲章に掲げられた理念が、そのまま「戦後レジーム」の理念となっています。また、国際安全保障体制としては、国連安保理にもとづく集団安全保障と各主権国家の個別的・集団的な自衛権が車の両輪となって機能しています。今般成立した安保関連法案が部分的ではあれ、集団的自衛権を可能にしたことは、この「戦後レジーム」としての国際安全保障体制に即した動きだといえます。また、安倍政権は、その外交指針として、自由や民主主義などといった基本的価値を共有する先進国との連携を重視していますが、これとて「戦後レジーム」と調和した動きであるといえます。ようするに安倍首相は、こと外交指針としては、国際社会が理解するところの「戦後レジーム」との緊密な協調をその根幹に据えているのです。
では、次に安倍首相のおっしゃる「戦後レジーム」とは何なのでしょうか。安倍首相は2007年9月の所信表明演説で「経済・行財政の構造改革はもとより、教育再生や安全保障体制の再構築を含め、戦後長きにわたり続いてきた諸制度を原点にさかのぼって大胆に見直す改革、すなわち、戦後レジームからの脱却」と語っておられます。つまり、経済・行財政、教育、安全保障体制などの戦後日本の諸制度のことを「戦後レジーム」と呼んでおられるのです。しかし、この安倍首相の「戦後レジーム」の捉え方には二つの問題があると思います。一つ目の問題は、安倍首相が問題にする「経済・行財政、教育、安全保障体制」などの諸制度は、はたして「戦後」という言葉でひとまとめにできるものなのか、という点です。たとえば「経済・行財政」制度については、必ずしも「戦後」特有のものではなく、むしろ戦前からあったはずの日本型の組織論や意思決定方式の問題がからむのではないでしょうか。また、「教育」制度にしても、戦後日本で一応の改革はされたものの、たとえば戦後憲法を戦前の教育勅語のように絶対視して教え込み、批判は一切認めないといった日教組のやり方には、戦前からの「伝統」をかぎ取ることも可能です。他方で、安全保障体制については、たしかに戦後にまったく新しい体制となりました。これは上述のとおり、戦後国際安全保障体制と軌を一にするものである以上、当然といえます。さて、二つ目の問題は、「戦後」ははたしてすべてダメだったのか、という点です。「レジーム」という言葉は、国家・社会構造をトータルにとらえる言葉であり、そこからの「脱却」といった場合には、「トータルな否定」という語感が出てしまいます。たしかに経年劣化して制度疲労を起こしている諸制度は数多くあるでしょうが、それとて戦後の一時期までは復興と高度成長を可能にし、今日の平和と繁栄を導いたのではないでしょうか。その「トータルな否定」はとりもなおさず、今日の平和と繁栄の否定につながるのではないでしょうか。
以上、「戦後レジーム」の意味をめぐる国際社会と安倍首相の違いと、安倍首相自身の「戦後レジーム」の捉え方の問題点について簡単に述べました。結論としていえることは、安倍首相が唱える「戦後レジームからの脱却」というスローガンは、国際社会に誤解と混乱を引き起こすことになりかねない、ということです。国際社会が安倍首相の「戦後レジームからの脱却」というスローガンを理解することはまずないでしょう。そして、安倍首相が、一方で重視する「国際協調主義」と、他方で唱える「戦後レジームからの脱却」の間にねじれの関係を見出すことでしょう。「アベはいったい何をしようとしているんだろうか」と懸念と猜疑の目を向けることでしょう。ですから、安倍首相は国内でもそうですが、何より国際舞台では、まちがっても「戦後レジームからの脱却」なるスローガンはお使いにならないほうがいいと思います。
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:4819本
グローバル・フォーラム