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2014-11-18 07:07
景気直撃の「GDP大誤算解散」
杉浦 正章
政治評論家
驚くというより愕然とした2期連続マイナス成長である。景気は失速して坂道を転げ落ちている。その最中にこれといった大義がない解散断行を首相・安倍晋三が今日18日に表明する。これまでの安倍の発言から類推する限り、形勢を一変させる「回天の大義」を記者会見で表明することはできないだろう。おそらく消費増税延期とアベノミクスの成否を問うことになろう。これは自らを不利な立場に導く「誤算の表明」に他ならない。野党の態勢不備を突くという「あざとい解散」に加えて、景気失速が意味するものは「GDP大誤算解散」の側面を濃厚にしているからだ。現有294議席の維持などは夢のまた夢。しかし公明党と合わせて政権維持は可能と見られ、政権交代劇までには至らないだろう。安倍が11月7日に自民党幹事長・谷垣禎一と公明党代表・山口那津男に解散の意向を極秘裏に伝えた段階で、この年率マイナス1.6%という数字を知っていたとまことしやかに言う評論家がいるが、噴飯物だ。この数字を知っていたら、政治家なら誰でもその対策が第1で、解散など考えようもないだろう。安倍も固めていた解散の判断にブレーキをかけただろう。安倍は外遊中の数日前に官邸から報告を受けて知ったが、国内は既に安倍自身が「解散風を吹かせよ」と指示してその方向で動き出しており、止めようにも止まらなかったのだ。
安倍は民間の予測であるプラス2.47%に引っ張られた可能性がある。延期か実施か判断に迷う数字だが、延期としてもおかしくない数字だ。これが第1の誤算であり、宿命的に来月14日投開票の総選挙に影響を与えざるを得ないだろう。今回の解散は誤算の上に誤算を積み重ねた感が濃厚だ。第2の誤算は消費増税実施延期を有権者が囃(はや)すと思った誤算である。4月の増税で息も絶え絶えの庶民にさらなる増税は自民党執行部の思考停止を露呈させた。筆者が半年前から先送りを洞察し、安倍の心中をピタリと言い当ててきたように、もともと不可能なのだ。消費税法の付則にある延期をしたからといって有権者が囃すことはないし、解散の大義名分にはほど遠い。さらにアベノミクスの実績を訴えるというが、開始して2年。確かに大企業の業績は上がり、失業率も改善された。しかし、肝心の輸出が伸びない。なぜかといえば企業の海外移転で円安のメリットが薄れてしまったのだ。この構造的な変化に気付かなかったのが第3の誤算だ。こうした誤算を野党が突かないはずがない。師走総選挙の焦点はアベノミクスの評価に集中せざるを得ないだろう。これは大義の説明がつかないまま党利党略、個利個略で解散を断行するという安倍の「あざとい邪心」がまねいたものに他ならない。
それでは年末解散が過去に時の政権にプラスに働いたかどうかを検証する。師走選挙は1969年の佐藤栄作による沖縄返還解散、72年の田中角栄による日中復交解散、76年の三木武夫によるロッキード解散、83年の中曽根康弘による田中判決解散、12年の野田佳彦による近いうち解散に基づく5回がある。このうち時の政権が勝ったのは、佐藤の圧勝と田中の安定議席獲得の2例にとどまり、三木も、中曽根も、野田も不利な戦いを余儀なくされて敗北を喫した。とりわけ野田の選挙は投票率が59.32%と極めて低調で、これが自民党を得票率がわずか27.62%で61.25%の294議席を獲得するという結果をもたらした。民主党の失政に加えて、政党の乱立で野党票が分散したのが原因だ。今回の選挙を展望すれば、安倍が大義を提示できない限り「何のため解散」の色彩が濃厚であり、有権者はしらけている。従って投票率は下がるだろう。下がった場合の選挙は組織政党に有利に働くケースが多い。2012年の選挙のように自民党に圧勝をもたらしたし、公明党や共産党にも有利に働く。しかし、今回の選挙が政権党に有利に働くかどうかは全く予断を許さない。師走選挙で勝った佐藤も田中も明確で有利な争点があった。ほかの3例はマイナス要因を抱えての選挙であった。三木、中曽根はロッキード裁判、野田は鳩山由紀夫、菅直人という史上最低の大失政政権の尻拭いという負の側面を背負った選挙である。
安倍の場合も、野党からGDPマイナスをもとにアベノミクスの失敗を突かれ、これに言い訳をする形の選挙となる。3例と同じように言い訳型選挙を強いられる。言い訳の選挙で勝つことは極めて難しい。野党も統一候補擁立や、新党結成の動きを強めており、12年の乱立による得票分散を回避しようとしている。冷静に見れば日本経済は好むと好まざるとにかかわらす、アベノミクスを成功させるしか生きる道はない。野党に対案が提示できるかと言えばその能力はない。一方、有権者は自らの生活困窮に「仕返し」の投票行動に出る傾向が高い。同じ1票でも深い展望を持つ層と、刹那的な判断に生きる層に分けられるのだ。しかしポイントは「風」が左右する小選挙区制にあるのだが、今回はどちらにも風は吹かないだろう。繰り返すが有権者はしらけているのだ。従って294議席を自民党が減らすことは間違いないが、最低でも公明との連立で政権を維持することは可能であろう。自民党が269の安定議席を確保するかどうかは極めて困難であろう。
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