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2014-08-28 16:06
日本の近代化、再考
池尾 愛子
早稲田大学教授
9月上旬、3年ぶりに中国を訪問することになっている。中国の大学で開催される国際シンポジウムに参加するためである。共通テーマは「日本の近代化」で、私の場合、現在研究中の天野為之(1861―1938)を論文テーマにしてよい、ということになったので、参加することにした。天野を追っていくと、明治維新以上に、開国のインパクトが大きかったことが改めて見えてくる。そして、日本のリーダーたちに深い衝撃を与えた出来事となると、イギリスと中国の間で締結された南京条約(1843年)であり、日米和親条約(1854年)等はよりましな不平等条約になったようだ。
もっとも、天野が中国人研究者の関心を引いたのは、彼の『経済学綱要』(1902年)の中国語版が、『理財学綱要』(1902年)という題で上海において出版されていたからである。清国からの留学生や留学希望者、経済学に関心を持つ人たちのために中文版が作成されたようである。当時の日本では、清国留学生を受入れた大学もあれば、受入れを断った大学もあり、大学ごとに対応が分かれていた。天野はJ・S・ ミルの『経済学原理』を土台にしていたが、貯蓄と投資が銀行仲介の金融メカニズムによりバランスすると論じて、現代マクロ経済学で中心となる論点を展開していたのである。
19世紀末から、日本では「実業」の言葉が流行して、起業を目指す人々が増えていた。1895年に国際貿易や実業を促進するために金融・経済データを掲載する『東洋経済新報』が創刊された。天野は同誌に署名入り社説を寄稿し、その社説を集めた論集『経済策論』(1910年)を実業之日本社から出版した。不平等関税問題については再整理され、(1866年から)日本の輸入品には5%の関税しかかけられないのに対して、欧米諸国は日本からの輸入品に対して自由に関税をかける事ができた事実が強調された。その不平等条約もようやく翌1911年に終わろうとしていた。
中等実業教育制度の整備が図られたのを機に、天野は商業教育だけではなく、中等実業教育全般で利用できる教科書・参考書『実業新読本』(全5巻、1911年、改訂版1913年)を編纂した。本人の書下ろしもあれば、『開国五十年史』(1909年)や『国民読本』(1910年)など他の著書からの引用もある。全巻を通して、交通・通信の革命的進歩が注目された。新しい実業読本には発明と起業の促進、人の信用の大切さ、銀行員になるための金言、清国に派遣される青年実業団への激励、「支那人に学べ」が盛り込まれた。そして終盤では、開国で変わった日本以上に、欧米の方がさらなる発明によってより大きな変化を起していたことがさらりと述べられた。
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