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2014-08-05 05:47
北京APECで日中首脳会談の公算大
杉浦 正章
政治評論家
中国国家主席・習近平が元首相・福田康夫と会談したことをどう解釈するかだが、やはり11月に北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を視野に入れたものと見ざるを得まい。習は会議の成功を強く意識しており、首相・安倍晋三を招いておきながら、一人だけ首脳会談しないという選択肢はないように思える。APEC会議に自ら摩擦要因を作る必要はないのではないか。むしろ日中首脳会談がおざなりのものにとどまるか、深い意味合いを持つものになるか、がポイントであろう。焦点は双方が11月までの間に水面下のチャンネルで、もつれた糸をどう解きほぐすかにかかっている。博鰲(ボアオ)アジアフォーラムの理事長を務める福田は、7月27日から3日間の滞在中に習と秘密会談を行った。前回23年4月のフォーラムの際にも習と約20分会談しているが、今回は時期が時期だけにその意味合いは異なる。福田は安倍の意を体して会談した色彩が濃厚であるからだ。安倍のメッセージが習に伝わった可能性が強いと見る。福田は安倍の日中関係改善への意志が極めて強いことを体して会談に臨んだ形跡が濃厚だからだ。習の反応は漏れてこないが、会談したこと自体が前進であると受け止めるべきであろう。
5月からの議員外交などを通じて出てきた中国側の立場は、二つの条件に絞られる。一つは安倍が再び靖国参拝をしないこと。もう一つは尖閣諸島をめぐって領有権の問題が存在することを認めよということだ。これに対して安倍は、8月2日のサンパウロでの記者会見で、「日中関係は戦略的互恵関係の原点に立ち戻るべきだ」と強調している。戦略的互恵関係とは2006年の安倍訪中でまとめた大方針だが、日中双方がアジア及び世界に貢献する中で、お互い利益を得て共通利益を拡大し、関係を発展させることを基軸としている。ただ2006年の日中合意には靖国参拝問題は深く言及しないままとなっており、尖閣問題も発生していなかった。尖閣が問題になり始めたのは2008年に中国が日本の領海に公船を乗り入れたのが発端である。従って安倍が「戦略的互恵関係への回帰」で言いたい日本側のポジションは、靖国参拝についてはあいまいのまま深く突っ込まないで処理することであろう。安倍自身がAPECでの首脳会談を希望する限りにおいては、もう参拝はしないと暗に示唆していることにほかならない。もちろん8月15日の終戦記念日の参拝も確定的にしないと言うことだろう。従ってするしないは深く言及しないまま、中国側はボディランゲージを読み取ってほしいということだ。
一方で、尖閣問題をどうするかだが、日本は尖閣は日本固有の領土であり、中国側と交渉するつもりはないという点ではっきりしている。中国側が主張している「棚上げ」も、領土問題の存在を認めることになり非常に難しい。領土問題は存在しないから棚上げはないのだ。しかし日中協調という大方針のもとにワーディングで対応しようとすれば出来ないことではあるまい。「棚上げ」論は鄧小平が1978年に首相・福田赳夫との会談で主張したと言われるが、通訳が正確ではなかったとされている。鄧小平は会談の後の記者会見で「一時棚上げしても構わない。10年棚上げしても構いません。この時代の人間は知恵がたりません」と述べたとされる。しかし通訳は「棚上げ」と翻訳したが実際に四川なまりで「放っておく」を意味する「擺(バイ)」という言葉を使っている。「放っておく」が正確なのだ。こうした経緯を踏まえで、元外務次官・ 栗山尚一がかつて「国際的な紛争を解決する方法は三つ。外交交渉、司法的解決、解決しないことでの解決。最後の方法は先送りとか言えるだろうが、尖閣問題を沈静化させるにはこの方法しかない」と述べている。解決しない解決、つまり先送りで合意すればよいということなのである。
こうした妥協案に習近平が応ずるかどうかで、11月に会談があった場合の、内容の深さが決まるのだろう。習は現在「汚職摘発という権力闘争」に忙殺されており、内政の動向が対日政策にも大きく影響してくると見るべきだろう。狙いは、いまだに利権を握る江沢民の上海閥の一掃である。薄熙来を不正蓄財で無期懲役にし、今度は本命・周永康を汚職で立件した。明らかに今月開かれる「北戴河会議」を意識している。同会議は現役指導部と党長老との会議であり、非公式ながら1年で最も重要な政治的行事の一つだ。ここで主導権を確立して、自らの地位を確たるものにすることが当面最大の課題だ。場合によっては、汚職摘発の返り血をあびかねない側面がある。まさに内政が外交に絡む可能性があり、国内的にリーダーシップが確立されれば、外交姿勢も柔軟になるものとみられる。
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