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2014-07-15 16:23
「戦争に巻き込まれる」との表現のおかしさ
桜井 宏之
軍事問題研究会代表
集団的自衛権の議論を巡り必ず出てくるのが、「戦争に巻き込まれる」(容認派であれば「巻き込まれない」)という言葉です。集団的自衛権行使とは、戦争に参加するという国家の主体的な意思決定であり、まるで主体性の欠如した「巻き込まれる」という言葉とは対極にある国家行為です。この問題で「巻き込まれる」(あるいは「巻き込まれない」)という言葉が使われるのは、国際法に対する理解が十分でないせいだと思い、今後のより良い議論のために解説したいと存じます。正当な自衛権行使であるか否かを問わず(例えばイラクによるクウェート侵攻)、国家間に現実の敵対行為が開始された場合、戦争状態の承認がなくとも、最初の武力が行使された時点から戦時国際法が適用されます。
戦時国際法は交戦国と中立国それぞれに異なる権利・義務を定めているため、戦争に直接関わりのない国家に対しても、国連安保理が「平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為の存在を決定」(国連憲章第39条)するまでの間は、戦争当事国に対して交戦国ないし中立国のいずれの立場を取るのか選択を迫ります。なお安保理の決定以後、侵略国と被侵略国が確定し、国連の集団安全保障の機能が働き始めますと、国連加盟国はこれに協力する義務がありますので、中立国の立場は取れなくなります。また国連憲章第39条に基づく安保理の決定以前(以下「決定前」)の段階では、どちらが侵略国と被侵略国であるかが確定していないので、この段階で集団的自衛権を行使することは、誤った武力行使に荷担する危険性が存在することに注意が必要です。
戦争に「巻き込まれたくない」国は、決定前の段階では、中立国の立場を選択する必要があります。中立国は、交戦国から攻撃を受けないという権利を得るのですが、そのためには、(1)防止義務、(2)避止義務、(3)黙認義務、の3つの義務を果たさなければなりません。集団的自衛権を行使するということは、自国の主権が侵害されていないにも関わらず、中立国を選択せず、交戦国の一員となることを意味しています。その意味で、戦争に「巻き込まれる」との表現には、筆者は非常に違和感を覚えます。例えて言えば、他人の喧嘩の仲裁に入って、喧嘩に「巻き込まれる」ことはあっても、喧嘩の加勢をすることを決して「巻き込まれる」とは言わないのと同じだからです。また国際法の無理解から集団的自衛権を巡る議論で全く検討されていない問題として、商船の拿捕の問題があります。
上述の戦時国際法のうち、もっぱら海上で適用されるものを海戦法といい、それには、商船の臨検・拿捕・没収に関する一連の慣習法があります。海戦法上、交戦国同士は相手国商船を拿捕する権利、中立国であっても戦時禁制品を敵国に運んでいる商船を拿捕する権利、が認められています。拿捕された積み荷の没収は合法なので、交戦国はこれを甘受しなければなりません。機雷掃海のような直接の戦闘に参加しない場合でも、日本が集団的自衛権に基づきそうした活動を行えば、その段階で日本は国際法上の交戦国となりますので、交戦相手国は、日本船籍の商船および中立国船籍であっても戦時禁制品を積んで日本に向かう商船であれば、その商船の拿捕が合法となります。簡単に言うと、全ての日本向け石油タンカーの拿捕が可能となるわけです。集団的自衛権行使を巡っては、憲法の観点から議論されるばかりですが、国際法と密接に関わる問題でもあるため、国際法上の論点も整理して、より深い論議がなされることが求められます。
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