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2014-07-07 06:50
北、の「遺骨」執着の背景を分析する
杉浦 正章
政治評論家
日本側が「拉致」を特別調査委員会構成の最初にあげているのに、北朝鮮側は、「日本人遺骨」を最初にあげ、大使・宋日昊がその重要性を強調しているのはなぜか。どうみても「遺骨」をめぐる日本側の資金提供を最重要ポイントに位置づけているとしか思えない。米兵の遺骨採集も再開しており、米政府は1柱あたり1万ドルから3万ドル支払っているといわれる。北は拉致とともに遺骨収拾は人道問題であり、米国も支払っている以上日本が支払っても文句はつけられまいと考えているようだ。朝鮮中央通信の報道では日本人拉致被害者らに関する「特別調査委員会」の四つの分科会は、〈1〉日本人遺骨、〈2〉残留日本人・日本人配偶者、〈3〉拉致被害者、〈4〉行方不明者、となっており、日本人遺骨を最初の分科会に位置づけた。これに対して日本側の発表は〈1〉拉致被害者、〈2〉行方不明者、〈3〉日本人遺骨、〈4〉残留日本人・日本人配偶者、の順であった。これは北が何よりも「遺骨」を重視していることを物語っており、明らかに温度差がある。すでに宋は、2012年に衆院予算委員長・中井洽(元拉致問題担当相)と会談したころから「遺骨」に言及、「最近、日本人墓地が各地で発見された。肉親が墓参のために訪朝を希望するのなら受け入れる。それは、日本政府からだけでなく個人の申請でも構わない」と提案、墓参が実現している。
今回「遺骨」を重視する背景には、朝鮮戦争における米兵の遺骨収集が北に資金をもたらしたことがまず想起される。米国と北朝鮮は1993年に朝鮮戦争での戦死米兵の遺骨捜索で合意し、96年から共同で収集作業を行っている。核実験で2005年に中断したが、いったん再開で合意したものの、12年に弾道ミサイル発射で再び中断。今春から収集作業を再開しているといわれる。米兵の戦死者は8000人で、1柱につき1万ドルから3万ドルを支払っているとされる。一方で、北朝鮮にある日本人の遺骨は、厚生労働省によると2万1600柱ある。そのほとんどが戦争直後の混乱で死亡した人たちであるが、多くが70数カ所の墓地に葬られているようだ。北朝鮮が米国と同様の計算で遺骨を日本側に返還した場合、単純計算すれば1人1万ドルで200億円、2万ドルで400億円、3万ドルで600億円となる計算だ。
どうも宋日昊の口から遺骨問題が頻繁に出される背景には、こうした“皮算用”がある可能性があるようなのだ。宋にしてみれば、米国が人道問題として遺骨の収集を再開している限りにおいては、日本が金を支払っても問題は生じまいという打算がある。金正日は特別調査委に「早く結果を出すように」と指示しているといわれ、まず日本からの最初の資金を「遺骨」で獲得したい思惑があるものとみられる。金の対日戦略は父親の金正日が残したといわれる「拉致問題の解決は、過去の清算に絡めよ」という言葉に沿っているとの見方が強い。すでに中国との関係は核実験と張成沢粛正で決定的な亀裂状態となっており、経済的にも穴埋めで日本を選択せざるを得ない状況下にあるものとみられる。
首相・安倍晋三は、制裁の一部解除に踏み切ったが、肝心の経済的利益に直結するような解除の仕方をしていない。輸出入の全面禁止、北朝鮮からの航空チャーター便の乗り入れ禁止、万景峰(マンギョンボン)号入港禁止、朝鮮総連の継続使用など核心的な部分は、カードとして残している。北の狡猾かつ必死な外交に惑わされる必要は無い。制裁を一部解除したのは、恐らく拉致被害者が生存しているとの感触を得た上でのことであろうが、拉致に関する限り過剰な期待はすべきではあるまい。政府もマスコミもせいぜい2、3人くらいと考えた方がよいだろう。問題は日本外交が拉致問題の解決を突破口にして、核・ミサイル開発を断念させるところにいかに北を導くかであろう。それには北風政策に太陽政策を織り交ぜてもよいことであろう。
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