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2014-05-27 06:57
日中はホットラインで緊張緩和の道筋を示せ
杉浦 正章
政治評論家
米ソ冷戦時代にすら存在した軍事衝突回避の手段が日本と中国との間に存在しないと言うこと自体が由々しき問題であろう。中国の戦闘機が自衛隊の警戒監視用の航空機にまるで航空ショーのように異常接近した。30メートルといえば、まかり間違えば衝突しかねない距離である。このような常軌を逸した軍事行動を黙認すべきではなく、政府が抗議をしたのは当然である。過去からの一連の中国の軍事行動を観察すれば、戦争にせよ、軍事衝突にせよ、中国が極めて低い行動基準を設定している事が分かる。日本と比べれば世界各国の行動基準は皆低いが、中国はそれに比べても数段低い。すぐに一線を乗り越える危険な軍事体質を保有している。近年の類似の偶発事故の例は、01年の南シナ海における中国戦闘機と米軍偵察機の接触だろう。中国機は墜落、米軍機は海南島不時着という事態となり、米中の大きな外交問題に発展した。最近では2013年に中国の軍艦が海上自衛隊の護衛艦や航空機に火器管制レーダーを照射した。ミサイルや砲弾を発射する前に使うレーダーであり、これも常軌を逸している。13年には南シナ海で、米巡洋艦カウペンスの前に中国艦が異常接近し、カウペンスが緊急回避行動をとった。カウペンスは中国海軍の軍事演習を偵察していたものだ。
こうした事例が繰り返されると、自動車事故と同じで、いつかは軍事衝突に発展する危険があることはいうまでもない。外務省の事務次官・斎木昭隆は5月26日、中国の駐日大使・程永華を同省に呼び、厳重に抗議した。斎木はこの席で不測の事態の回避のため、日中の防衛当局間のホットライン設置も含めた「海上連絡メカニズム」の早期運用を要求。程は「中国側としても両国間で不測の事態を回避することは重要だと考えている。本国に報告する」と答えた。世界各国では62年の米ソキューバ危機以来危機管理の思想が定着している。直後の63年にはホットラインが世界で初めてホワイトハウスとクレムリンの間に設けられた。対立する2国間においては、相手の行動が予測不能で、疑心暗鬼になることが一番危険である。ホットラインの設置が礎(いしずえ)となり、その後米ソは緊張緩和への道を切り開いていった。日中防衛当局間では「海上連絡メカニズム」の協議が一時進んでいたが、安倍政権に中国側が態度を硬化させ、最近では進展がない。首相・安倍晋三はまずこれを動かすことが肝要であろう。
問題は、中国国家主席・習近平がこうした軍事行動に関与しているかだ。恐らく一定の枠内での了解は与えている可能性が高いが、現場の判断による色彩が濃厚である。レーダー照射もカウペンスへの接近も指揮官レベルの判断によるものだろう。となれば軍の独走が懸念されるところだが、いまだに国内を完全掌握していない習近平が、こうした行動を黙認して、国民のナショナリズムを煽り、国論の統一を反米、反日ではかるという極めて危険な対応をとっていることが浮かび上がる。日本が認めていない防空識別圏を既成事実化する意図も見える。習近平は軍隊の経験はあるが、軍事戦略はほとんど知らないと言われる。一方で中国の軍人は、専門家によると米日と軍事力を比較して練度といい、戦闘機など最先端の武器といい、劣っていることを十分認識しているといわれる。中国の軍事予算は過去10年間で4倍になっている。米国のシンクタンクには2030年に中国の軍事力が米国と肩を並べるという分析があるが、これはGDPが順調な伸びを見せることを前提としている。
そのGDPは鈍化しており、金融危機もささやかれる中、日本などの企業の撤退も多く、将来を見通せる状況にはない。軍事予算といっても人民解放軍は230万人に達しており、かなりの部分が人件費に回ってるようだ。かえって経済力が軍事費に食われる兆候も現れている。これに比較して日米は高度な科学技術力を駆使した兵器を保有している。特に米軍は絶え間ない戦争で国民の間に厭戦(えんせん)気分があるが、その結果軍隊の実力は世界で圧倒している。戦闘の実体験において抜きん出ているのだ。その米軍と自衛隊は頻繁に合同軍事訓練を繰り返しており、ノウハウはかなり蓄積している。いくら、軍事戦略に疎い習近平でも、日米を相手に勝てる段階ではないことくらいは認識しているだろう。中国には孫子の兵法があるではないか。「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず」で、敵を知り、「戦わずして勝つ」で、外交による問題解決にかじを切るべきではないか。安易な挑発を繰り返すべきではない。また今回の事件が物語るものは、日本にとって集団的自衛権の行使容認という抑止力の確立がいかに重要かということであろう。
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