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2014-04-18 06:52
TPP交渉:日米首脳が大筋妥結の流れ
杉浦 正章
政治評論家
4月24日の日米首脳会談では焦点のTPP(環太平洋経済連携協定)で首相・安倍晋三と米大統領オバマが大筋合意の方向を打ち出す流れが強まった。断続的に継続されている閣僚折衝では重要5項目の内、コメ、麦、砂糖については事実上合意した。焦点の牛豚肉、乳製品について閣僚レベルで合意に達しない場合は、首脳会談で少なくとも「交渉妥結」の方向を確認する。これにより日米の交渉を見守って停滞していたTPP交渉は、参加各国の動きも活発化し、アジア太平洋に世界最大の経済圏が成立する方向が確定的となった。これに関連して首相・安倍晋三は17日“妥結への決意”を表明した。ここに来て大きな前進を見せようとしている背景には、緊迫するウクライナや極東情勢をにらんで、日米首脳が結束を不可欠とする政治判断がある。安倍の17日の講演はワシントンで行われている日米閣僚級協議について、「細かい数字を巡って今、交渉していると思う。お互いに数字にこだわることも重要だが、『TPPには大きな意味がある』という高い観点から最終的に結果を得て妥結を目指していきたい」と述べたものだ。
安倍の言う「数字にこだわらない高い観点」とはなにを意味するかだが、尖閣をめぐる中国とのあつれきや、北朝鮮の核ミサイル開発など極東情勢の緊迫であり、一方オバマにしてみれば、これに加えてウクライナ情勢の悪化にほかならない。両首脳とも対中、対露関係での日米結束が不可欠という判断に至ったのだ。中国やロシアは日米交渉の進展を固唾をのんで見守ってきているのであり、ここで日米に亀裂が生じたという印象は何が何でも回避しなければならないのだ。首脳会談までに牛肉などの“数字”では一致しない場合でも、妥結に向けての方向を確認すればよいという判断だ。こうした中で安倍は先の日米韓の首脳会談の際、オバマと短時間会談した内容に基づいて米側と交渉するように経済再生担当相・甘利明に指示している。これまで明らかにされなかったその内容とは、安倍が「日本の農業が壊滅的な打撃を受けるような政治決断はできない」と伝えたのに対して、オバマが「そのような事態に至る政治決断を求めるということではない」と答えたというものだ。明らかにオバマは妥協の方向をにじませている。甘利は、これに基づいて米通商代表・フロマンに5項目全部について関税ゼロの主張の撤回と妥協を求めたのだ。
この結果、話し合いは急進展を見せ始めた。コメ、砂糖、麦は関税を維持する方向で一致した。乳製品もチーズを除きほぼまとまった。コメの現行778%、砂糖の328%、小麦252%、大麦256%の関税率はほぼ維持できる方向となった。その代償として日本側は、コメについては日本政府が関税なしで輸入する「ミニマムアクセス(最低輸入量)」の拡大をはかる。麦は政府が買い取る輸入枠の拡大などで譲歩することになろう。一方焦点は牛肉の関税だ。日米ともに畜産議員らの主張は強硬で、議会の圧力を抱えている。現行38・5%の牛肉の関税率については、甘利は日豪経済連携協定(EPA)で大筋合意した20%前後への引き下げを提案したが、フロマンはゼロは取り下げたものの「5%以下」を主張。10%台で折り合えるかが焦点になる。交渉がワシントンの閣僚交渉で妥結に至るかどうかは極めて微妙であり、結局首脳会談の際の“裏交渉”に持ち込まれる可能性もある。
しかし、日米首脳の妥結への意志は固いものとみられ、牛肉についても一定の時期と幅を指し示すなど着地の方向を打ち出す可能性は高い。オバマにしてみれば日本との妥協が成立してTPPに弾みがつけば、数少ない中間選挙対策になることは確実である。TPPが合意に達すれば加盟国を拡大した東アジア地域包括的経済連携(RCEP=アールセップ)にも道を開くことにもなる。東南アジア諸国連合加盟10か国に、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの6ヶ国を含めた計16ヶ国でFTAを進める構想だ。安倍としてはこうした経済連携交渉に将来的には中国も巻き込み、日中間の政治上のあつれきを経済面から解きほぐす戦略も視野に入れることになる。TPPの日米首脳合意の方向は極めて重要な外交・安保上の意味を持つことになる。
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