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2014-04-10 07:01
日中改善へ針の音が2度聞こえた
杉浦 正章
政治評論家
戦後最悪の日中関係が続く中で、関係改善に向けた動きがあれば針の落ちる音でも耳を傾けなければならない。その針の落ちる音が2度聞こえた。1つは1980年代に日中関係改善に尽くした元総書記・胡耀邦の長男・胡徳平(71)の来日だ。他の1つは中国側の要請で実現する日中友好議連による大型訪中団の実現だ。いずれも一歩前進になり得る要素をはらんでいる。4月6日から来日している胡徳平は元首相・福田康夫、官房長官・菅義偉、外相・岸田文男、自民党副総裁・高村正彦らと相次いで会談、8日には講演もしている。胡は全国政治協商会議の常務委員を務めたことがあり、中国共産党の高級幹部の子弟グループ、いわゆる「太子党」の一人として、今も党内に一定の影響力を持っている。
中国国家主席・習近平にも直接意見を伝えられる立場にある。外務省招待の形で来日したものだが、当初3月下旬に予定されていた来日は、中国側の事情でいったん見合わせることになったが、ここに来て急きょ実現に至った経緯がある。一連の会談ではもっぱら“微笑外交”だけが目立った。官房長官・菅義偉との会談で、胡は「両国は経済でも切っても切れない関係にあり、交流を深めたい」と発言。高村には「戦略的互恵関係を取り戻さなければならない」。講演では「大局的観点で良好な日中関係を維持していくことが唯一の選択肢だ」と強調している。現在は無役とはいえ、日中関係に長年携わってきた大物政治家による久しぶりの関係改善に向けての発言である。高村は日中友好議連の訪中に当たって、中国首脳との会談実現を要請したものとみられる。
その友好議連の訪中だが、5月4日から6日の日程で実現することになった。昨年も5月連休に訪中を予定していたが、中国首脳との会談が無理と伝えられ、断念した経緯がある。高村らが今回の訪中に意欲を燃やしているのは、中国側の要請で実現することになったからである。3月13日に来日した中日友好協会副会長・王秀雲が直接高村に要請したものだ。王は首相・李克強とも近く、中国政府の何らかの意図が作用している可能性が濃厚だ。高村が目指しているのは中国国家主席・習近平か李克強との会談であり、昨年これが実現しないと分かって断念したが、今回訪中することになったのはよい感触が伝えられている可能性がある。昨年行われた首相・安倍晋三の靖国神社参拝以後、中国の政治家が日本の政治家と会談することは皆無であったが、3月には中日友好協会会長・唐家センが、訪中した民主党前幹事長・細野豪志らと初めて会談している。友好議連の訪中団は会長の高村と副会長の岡田克也、山口那津男ら与野党の有力政治家で構成する予定であり、中国首脳との会談が実現すれば冷え切った日中関係打開に向けた糸口になる可能性がある。
日中関係は、習近平がベルリンで南京事件に関して「日本が30万人以上殺した」と誇大妄想的な主張をしており、歴史認識での中韓共闘など悪化の一途をたどっている。北京で8日行われた米国防長官・ヘーゲルと中国国防相・常万全との会談では、尖閣問題で自制を求めたヘーゲルに対して、常は「領土を巡る対立で妥協の余地はない」と発言、激しい応酬が展開された。基本的には習が共産党政権に対する国内の不満を、尖閣を“活用”することで回避しようとしている構図であり、その構図がある限り日中関係は根本的な関係改善にはなりにくい。しかし習は、明らかに“政経分離”で経済だけは共栄共存に持ち込みたい考えがあるものとみられ、日本側も経済、文化、人的交流の活発化で関係改善への基盤をまず作り上げることが必要なのだろう。
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