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2013-12-06 06:22
「極東冷戦」が秘密法案強行を加速
杉浦 正章
政治評論家
参院において特定秘密法案が採決段階に突入し、今国会での成立が確実視されるに至った。12月4日スタートした国家安全保障会議(NSC)の基盤となるべき法案であり、中曽根内閣でスパイ防止法案が廃案になって以来、約30年ぶりの秘密保護体制の確立となる。最近、首相・安倍晋三は側近らに敬愛する祖父・岸信介による60年の日米安保改定をよく口にするというが、秘密法案成立加速には外交・安保情勢の変化が大きく作用した。まさに東西冷戦への危機感がもたらした安保改定と同様に、中国の海洋進出、北朝鮮のミサイル・核威嚇に端を発した「極東冷戦」の構図が大きな背景として存在する。これだけの対決法案で巨大与党・自民党内に反対の声が上がらず、終始結束したのも、国民の危機感を背景にしたサイレントマジョリティの支持があるからに他ならない。ここまで来た以上、多少の会期延長はしても、法案は成立の運びとなるに違いない。与党はここで突っ走らないと、すべてが虻蜂(あぶはち)取らずになる場面だ。
国会を取り巻くデモは老人が中心であり、各地で行われるデモもその傾向がある。朝日新聞や左翼政党による扇動が空回りして、学生運動や若者に波及しない最大の理由は、青年層の右傾化である。世論調査によると主に新聞が情報源の人の自民党支持率は38・0%、民主党は15・2%だったのに対し、ネットを情報源とする人は自民56・6%、民主3・2%と天と地の違いだ。このいわゆる若者中心の「ネット右翼化」の潮流が、安倍政権支持の流れと重なっているのだ。この流れはどうして出て来たかと言えば、民主党政権の優柔不断にある。尖閣漁船衝突事件で船長釈放に至る経緯は、外交・安保史上まれに見る不満を国民の間に潜行させ、2度にわたる国政選挙で自民党を圧勝させる原動力になった。国民は「軟弱かつ無能」なる民主党政権でなく、「スジを通す」自民党政権を選んだのだ。その潮流を見逃して、朝日は安保反対に匹敵する大衆扇動の編集方針を打ち出し、流言飛語の類いを紙面に満載させて、一大国民運動への拡大を目指したが、失敗した。これに呼応したのは、民主、共産、社民の左翼政党のみであった。大衆は一部老人しか動かなかったのだ。とりわけ左翼勢力に主導権を握られている民主党は、このマスコミの動きを活用して自らの復活を計ろうと、ポピュリズムの極みの左傾化路線を取ったが、いまさら「昔の名前で出ています」と言われても、国民が見直すことはない。
極東情勢は、他国の領土への防空識別圏の設定など、強引な中国の海洋進出に対処できるかどうかが、すべての判断の基準なのであり、そこに野党の出番はない。NHK世論調査による政党支持率は、自民党が36.1%なのに対して民主党がわずか5.2%であり、国民の支持の動向がはっきり現れているのだ。冒頭述べたように、戦後最大の反政府闘争であった安保闘争の中で、同条約改定を押し切った岸が、日本繁栄の礎を作ったことは間違いなく、安倍が自らの置かれた立場を重ね合わせるのも無理はない。しかし、安倍に臨時国会の位置づけで誤算があったのも確かだ。当初安倍は臨時国会を「成長戦略国会」と名付け、もっぱらアベノミクス定着への路線を敷くものと位置づけていた。秘密法案は二の次でよいと考えていたフシがある。
そうした中での第1の誤算は、反自民の一部マスコミが一大キャンペーンを起こして、扇動する動きに出るとは思っていなかったのだ。幸いにもキャンペーンは結果的に空転したが、国会審議は野党が煽られて、成長戦略国会どころではなくなってしまった。事実上秘密法案にかかりっきりとなってしまったのだ。第2の誤算は、行うべき事前の準備が甘かったことである。これほどの対決となると予想していたのなら、担当相に森雅子を起用することはなかったであろう。このレベルで押し切ろうと判断したのが甘かったのだ。また法案そのものの骨格は問題ないが、詰めが出来ていなかった。第三者機関をめぐる答弁が二転三転の印象をもたらして、紛糾に輪をかけたのだ。幹事長・石破茂の「テロ表現」も上手の手から水が漏れたケースであろう。政権全体に総選挙は先であり、勢力温存は可能だという緩みがあったとすれば、そこがアリの一穴で、野党につけ込まれることは避けられない。よほど態勢を引き締めてかからないと、集団的自衛権の解釈変更、原発再稼働、憲法改定など今後の重要テーマに支障を来す恐れがある。
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